【星幽塔】第九階層　サルベージ！｜リアクション

【星幽塔】第九階層　サルベージ！

●ダンクレオステウス！

「わー！！　あれがダンクレオステウス！？　でかーい！！」

　ダンクレオステウスの姿を見たエリオットは、はじめ、その堂々とした姿に見ほれた。
「あれが……ダンクレオステウス。なんと立派な姿なんでしょう」
　古代に生きた魚を見るのは初めてで、水族館スタッフとしての血がうずく。
「地球では、サメの登場や史上最悪の大災害であるスーパープルームで滅びたらしいですからね。まぁ、硬い鱗に包まれているから、動きもそれほど早そうじゃあないですね。三葉虫などの硬いものを食べるためだったんじゃないかと思いますね」
　たしかに、泳ぎにマグロのようなスピード感はない。
　だからこそ、リリエルやメリィがなんとか逃げ切れている状況だ。
　しかしこのままじゃあこちらが疲労するだけ。リリエルは意を決してメリィに向き直った。
「メリィちゃん、やっつけましょう！」
「むむむ。そうだね、やっつけよう！　このままじゃ船を引き上げられないよ！」
　メリィとリリエルは海中で止まると、振り返って両手を突き出す。
「いきますよ！　つむじ風の魔法です！」
　手袋に宿った魔風の力を放つ。
　風の魔法は水中で一筋の渦を巻く泡となって、ダンクレオステウスへ向かってゆく。
　しかし、泡は甲冑のような額に当たって無残に消えただけだった。
「……はわわ？！　水の中だから風が無数の空気の泡になってダメージになりません？！」
　リリエルは大慌てで、虎の子メリィに助けを求める。
「メリィちゃーん！　助けてくださーい！」
「風は泡になっちゃうんだね、なるほど……っていってる場合じゃなかった！！　よーし、あたしに任せろっ！　リリエルー、あぶないから下がってろ～！」
　メリィはリリエルをかばうように前に出た。
　近づいてくるダンクレオステウス、その巨体が急に傾いだ。
　真横から、セイウチに乗ったエリオットが体当たりしたのだ。ダンクレオステウスの目がぎょろりとエリオットを睨む。戦艦のような巨体の向きを変え、ターゲット変更だ。それも計算の内で、エリオットは涼しい顔。
「こちらの方が泳ぎは早いですからね、そう簡単に食べられたりはしませんよ」
　その隙に、オルカがメリィとリリエルの手を引いて、珊瑚の影に身を隠させる。
「Signorina, ケガはない～？　綺麗な女の子に傷がつくなんて世界の損失だからね～」
　オルカの微笑みに、少女たちはぽっと頬を染める。
　
　どぼん！　どぼん！
　海中に泡の柱が下向きに三つ立った。
　一つ目の泡の柱は、ダンクレオステウスを狙うように落ちてきた黒い錨。
　二つ目の泡の柱は、錨を落とした新田亮自身。
　島の港で調達した錨を、威嚇のために海中の魚影目掛けて落したのだ。亮は魔水の力で水を操作し、錨をダンクレオステウスへ向かって押しやる。
　巨大な甲冑魚は緩慢な動きながら錨を避けるように泳ぐルートを変えた。

　三つ目の泡の柱の中から姿を現したのは、紅き瞳のサキリ・デイジーカッター！
　十二階層のスコルピウス山で採掘された蠍鉄鉱で作られたナイフ、蠍毒匕首に宿した魔水の光で水流を起こし、海底の砂を巻き上げ、ダンクレオステウスの視界を奪う。
「大丈夫かい？」
　サキリが巻き上げた砂を見たメリィが、あっ、と閃いた。
「この砂、魔土の力なら！」
　メリィは海中に舞い上がった砂を操るようにして、沈没船の周りに煙幕状の砂のカーテンを張り巡らせた。
　ダンクレオステウスは白い砂のカーテンの向こうで、セイウチに乗ったエリオットに気を取られている。

　リリエルはメリィの身体を抱きしめた。
「やった、メリィちゃん！　これならダンクレオステウスの目を逸らせそうです！」
「えへへ。砂のカーテン、どれくらい保つかわからないから、いそいで引き揚げ作業をすすめちゃおう～！」

このページにイラストを設定する