【星幽塔】第九階層　サルベージ！｜リアクション

【星幽塔】第九階層　サルベージ！

●サルベージ開始！

　真っ青な水面に水しぶきがあがる。
　人魚さながらしなやかな泳ぎで海に潜るはオルカ・ヴィヴァルディである。

「Bella!　なんて綺麗な海なんだ」
　
　青の世界の海底は白い砂で覆われていた。ところどころにこんもりとした丘があって、近づくとそれは、ルビーやエメラルドのような透き通った珊瑚の林だった。橙や黄色のクマノミに似た魚たちがまるで蝶の舞うように珊瑚林の中を出たり入ったりしている。
　オルカはこの光景を相棒にも見せたいと思った。
「何かお土産に持って帰ってあげれるといいな～」

　騎士の光で生み出したセイウチに跨った水族館勤務のエリオット・Ｅ・シートンもまた、目を輝かせている。

「はじめてなんですよ、星幽塔にくるのは」
　悠々と海底の砂地を這うように泳ぐはエイに似た魚の群れ。
　滑らかなヒレを怪盗マントのように翻しながら泳ぎ去っていく。
　頭の中で海洋生物図鑑を繰り、地球上の生物との違いを楽しんでいる。
「こんな体験は初めてなんですよ。さて、沈没船は……あの辺でしょうか？　気を付けながらいきましょうか。海っていうのは深く潜るほど、暗くなっていくところですからね」

　きゃっきゃと歓声をあげ、リリエル・エーテライトとメリィ・ランページが仲良く海に飛び込んできた。

「うわー、綺麗な景色ですね」
　リリエルは珊瑚礁や色とりどりの魚の群れに海色の瞳を見開いた。
　メリィは口をぱくぱくして、水中呼吸薬の効きに感動している。
「おぉー……！　すごーい、息もできるし喋れる～！　海の中、きれーだなー」
「あ！　メリィちゃん、あっちにお魚さんの群れが泳いでます！　すごいですね！」
　目の前を、１メートルもあろうかという巨大な渦巻き殻の生物が、しゅっ、しゅっとジェット噴射をするように行き過ぎる。螺鈿のような光沢が海の青を映して、実に美しく、勇壮な泳ぎっぷりだ。
「こんなの、めったに見れないよ」
　ふたりはしばしサルベージの事を忘れて海の散歩としゃれこんだ。

　駆け出し冒険者のルーク・ポーラスターは、金の髪を後ろで束ね、海パン一丁で泳いできた。

「オルカ！　海底の砂の中から沈没船、引き上げられそうか？」
「なんとかね。まずは砂をどかさないとね～」
　砂に突っ込んだ船首付近に取りついたオルカは、魔水の力で、船を壊さない程度にゆるく水の流れを作って砂を押し流す。おなじく魔水の力を宿したティオレ・ユリウェイスもオルカと呼吸を合わせて水流を操る。
　まるで見えない大きな手で砂遊びをしているかのようだった。海底を覆う白い砂は、水の流れにさらさらと動いて、船体が姿を現し始める。
　泳いできたルークとエリオットが傾いた船体を押さえた。
　船の周りの砂が窪み、船首がすっかり顔を現した。
「そ～っと丁寧に。船は女性って言うしね～」
　イタリア人の父を持つオルカは、女の子を扱うように優しく水流の手をつくり、ルークとエリオットの力も借りて海底の抉れた部分から船首を引っ張り出すと、今度は船の下に砂を集めて船体を水平に立て直した。

「ふ～」
　海中だからぬぐう汗などないのだが、それでもいい仕事をしたとオルカが額を押さえたそのとき。
　海中散歩に出かけていたリリエルとメリィが、泳ぎ戻ってくる姿が見えた。
　その背後から、魚の群れ。色とりどりの魚たちがカーテンのように群れてリリエルたちを追っている。かと思うと、魚の群れがパクリと割れ、その間から大きく口を開けた巨大な甲冑のような顔が、ぬうっと現れた！

「はわわ！　ダンクレオステウスです！」

　リリエルが泡をいっぱい吐き出しながら手をぶんぶん振って沈没船の方へ注意を促す。
　メリィも、自分より何倍も大きい甲冑魚に驚いた様子で、虎の尾をぴんと緊張させた！

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