ねっ、寝坊したァーーーーーー！！｜リアクション

ねっ、寝坊したァーーーーーー！！

　始業前。
　八神修は２年２組の教室を覗いて、七夜あおいの姿を探した。
　いっしょにテスト勉強した際に気に入ってくれてた写真家の新刊が出たので貸そうと思ったのだが、クラスメイトに聞くとまだ来ていないという。
（へんだな。いつもならもう……）
　寝坊だろうか？　一寸気になり、ニャインで「おはよう」スタンプを送る。既読はすぐについた。
　『遅刻するーーー！！』という、女子学生がパンを咥えて走っているイラストのスタンプがつく。
　寝坊でもしたのだろうか。
　微笑ましい気持ちになって自分の教室に戻り、自分の席から南校舎前を見守る。
　今ごろ、あのスタンプみたいに学校に向かって走っているころだろうか？
　そう思って待ってみるがなかなか来ない。
　次第に心配になってきたそのとき、あおいがツインテールを跳ねさせながら走ってくるのが見えた。
（頑張れあおい）
　ハラハラと見守る。
　どうしよう、もう先生が来る時間だ。
（あおいの担任に話しかけ時間を稼ぐか？）
　……駄目だ。あおいに後ろめたい思いさせちゃいけない。
　一瞬の逡巡ののち。
　修は窓の外に向かって大声で叫んだ。
「頑張れ」
「走れ」
「まだ可能性はある！」
「頑張れ！」
　名は呼ばず叫ぶ。
　遅刻しそうになって走っているのはあおいだけではない。
　走る皆に、その声は届く。その中のひとりがあおいというだけだ。
　これなら、あおいが恥ずかしい思いをすることはないだろう。
　声が届いたのか、あおいの走りが早くなる。
（間に合え）
　修は祈る。
　あおいの姿が、生徒玄関の中に消えた。
　先生が入って来てホームルームが始まった。
　１時間目は、あおいが間に合ったかどうかが気にかかって、気もそぞろだった。
　休み時間になるとすぐに、修はあおいの元を訪れてみた。
「よかった。間に合ったんだね」
「うん。頑張れって声聞こえたよ」
「自分でも驚いた。あんな大声が出るなんてな」
　お互いに顔を見合わせてバツが悪いような笑みを浮かべる。
「びっくりしたけど、あれでラストスパートかけられたよ。今朝はうっかり二度寝しちゃって……間に合わないかと思った」
「ドンマイ。ああそうだ。この写真集、貸そうと思ってさ。この前の人の新刊なんだ。良かったら」
　猫の写真集を差し出す。
「ありがとう。いろいろ」
　あおいに礼を言われ、修は真っ赤になる。
「いや、あの……うん」

　いろんな寝坊がある。
　寝坊にもドラマがある。
　ほんのささやかな、何かに繋がる、ドラマの数々である。
　ほら今日もどこかで聞こえる。

「ねっ、寝坊したァーーーーーー！！」

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あとがき

担当マスター：山中にいな
ファンレターはマスターページから！

参加してくださった皆様、ありがとうございました。
遅くなりまして申し訳ありませんでした。
山中にいなです。

皆さんの素敵なアクションに助けられながら今回も書くことができました。

寝坊にまつわるお話も、
いろんな形があるものだなあと改めて感じました。

近いうちか、また少し間隔が空くかは分からないんですけど、
また次のシナリオでお会いできることを、楽しみにしています！

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