ねっ、寝坊したァーーーーーー！！｜リアクション

ねっ、寝坊したァーーーーーー！！

　いろんな寝坊がある。
　寝坊にもドラマがある。
　これはそんな日常の、ドラマの数々である。

　ぱちり。
　恵御納夏朝は目を覚ました。
　桜花寮の自室。馴染み深いふかふか布団の中。なのに、何か違和感。
「今日は学校……学校！？」
　がばっと布団を跳ねのける。
　時計を見ると、針の位置がおかしい。
「もう８時過ぎ……！？」
　脳が一気に覚醒する。
「う、うわぁぁあ寝坊したぁぁ！？」
　飛び降りるベット。
　ハンガーにかけておいた制服一式に飛びつき、わたわたと身支度整える。
　もどかしくベストのボタンを留め、リボンを結ぼうとして、己の間違いにはたと気付く。
「あぁぁブラウス着る前に制服ベスト着たぁぁぁ！？」
　急いでいるというのにやり直しだ。
　改めて正しい順番で制服を着直し、鏡の前で手早く寝癖を直し、内緒で飼ってる猫さんのご飯を用意する。
　レンズ猫のおはぎ。
　ちょっと変わった猫だから、飼っていることはみんなには内緒だ。
　今は隠れてるようで姿は見えないけど、小声で声はかける。
「ご飯遅れてごめんね……それじゃ、行ってくるから……！」
　行って来まーすと自室の鍵をかけ、あわあわと桜花寮を飛び出し走り抜ける！
　桜花寮を出たら学校までは山沿いの道を一直線。
　信号を三つ過ぎれば校門がある。
　夏朝は、校門を潜り抜けてもなおダッシュ！　
「教室まで間に合うといいけど……！」
　息を切らしながら東門まで辿り着くと、四十九院鸞先生が、長い黒髪をゆらゆらさせて、ゆっくり歩いているのが目に入った。
「あれ？」
　先生があんなに余裕な様子で歩いているのなら、まだ時間にゆとりがあるのかな、と思ったが、正面の講堂に掛かっている時計の針はギリギリだと告げている。
「もしかして、先生も寝坊したのかな……ってそれどころじゃない！」
　夏朝は速度を上げて、先生を追い越す。
「四十九院先生、おはようございます……先生も気を付けてぇぇぇ！！」
　時間があればゆっくり話したかったけど……今は時間がない！
　２年２組の教室まで、最後のラストスパートをかける……！
「ぜぇ……おはよ……ぅ……」
　教室にずざーっとすべりこみ、ぜーはーと息を切らしながら何とか自分の席へ着く。
　隣の席の子が小首を傾げて挨拶を返してくれる。
「おはよう。寝坊したの？」
　何か答えようとしたが、すっかり息が上がってしまって、こくこく頷くので精いっぱい。
「あっ先生来た。ギリギリセーフだったね」
　隣の席の子がそうウィンクしたのと同時、教室のドアが開き、担任の久保田美和先生が入ってきた。
「はーい、出欠を取るわよー」
　夏朝が遅刻しそうになったなんて気づかぬように、いつものホームルームが始まる。
（朝に用事が入ってない日で良かった……！）
　ほっと一息……。
（……四十九院先生も、間に合ってると良いな……）
　夏朝は長ーく息を吐いて、黒髪の先生のことを思い出す。
（さて……１時間目の準備をしないと……）
　教科書の束を鞄から机の中に移し、今日も一日が始まる。

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