ねっ、寝坊したァーーーーーー！！｜リアクション

ねっ、寝坊したァーーーーーー！！

　セレブもセレブな星ヶ丘寮。
　桜栄理事長がノリで造ったこの寮は、丘の斜面に１階建てや２階建ての部屋が独立して建っている。
　御巫時子の住まいは、一軒の日本家屋のような建物だ。
　風通しは良い方だが、夏も盛りとなるとさすがに暑い。
　部屋の掃除を終え、ふうと額の汗をぬぐった時子は、ふいに五十嵐尚輝先生のことを思った。
「尚輝先生は今何されてるでしょうか？　もう起きられてますよね……？」
　時計を見れば、１１時ちょうど。
　無性に声が聞きたくなり、電話をしてみる。
「尚輝先生、おはようございます……」
「……ぁ、おはよう……ございます？」
　受話器の向こうからはくぐもった声。
　明らかに声が寝起きだ。
（まさか今起きたのでしょうか？）
　遠方に住む子を心配する母親のような気持ちになって、ついちょっぴり咎め口調。
「もう１１時ですよ。夏休みですが学校は大丈夫ですか？」
「……え、あぁ、まあなんとか……」
　適当な返事に時子はますます心配になる。
　夏休みでも教師の仕事はあるだろうし。
　それに朝食と昼食が一緒になってしまう時間帯だし。
「食事はしっかりとってくださいね」
　実験中など食事を忘れることも多いのを良く知っているので、健康のことを考えたらできれば３食しっかりとってほしいと願っている。
「夏バテされてませんか？　食欲はありますか？」
「一応今のところは……」
「一応、ですか？」
　学校がある時は時々お弁当を持って行っていた時子だが、夏休みに入ると学校があったときのようにはいかない。食事面は特に心配するところだ。
「顔を洗ってうがいして水分もしっかりとって下さいね」
「はい……」
　電話の向こうの先生の声はバツが悪そうである。
　きっと、自分で気を付けたりなんかしていないのだろう。
　電話だけでは物足りず、会いたい気持ちが募って来て、時子はとうとうこういった。
「１２時にお弁当を持って行きますので一緒に食べませんか？」
　まだ一時間あるので二つお弁当を作る時間はあると踏む。
「ええと……ご迷惑では……」
「いいえ。全然。丁度自分の分を作ろうと思っていましたから……」
「そうですか、では……遠慮なく」
「はい。１２時に伺います。先生の淹れるコーヒー楽しみにしてますね……」
　電話を切る。
　腕まくりして台所へ。
　あの調子だときっと貧しい食生活を続けていたに違いない。
　なにか精がつくものがよいだろうか。
　鼻歌混じりで心は弾む。
　先生に会えると思うだけで暑さも吹き飛ぶ時子であった。

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