にゃんこ化する日｜リアクション

にゃんこ化する日

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　ややこしい。
　実にややこしい。
　万条幸次は飼い猫の花遊と入れ替わってしまった現実に軽く混乱していた。

『オレ、花遊！　いつもかつおぶしありがとうなっ』

　花遊がオレの姿でめっちゃ笑顔で話しかけてくる。
　オレが花遊で花遊がオレで、いやもうほんとややこしい。

「にゃにゃにゃ、なーにゃっ？」

　うわー、オレの言葉猫だよ。
　いやまぁ、花遊が猫でオレがその体に入ってるんだからそうなるだろうけどなっ。

『わかってるよ幸次！　こんないい天気なんだから、お散歩だよなっ』

　ひょいっと花遊がオレを抱き上げる。
　いやまてオマエ、絶対わかっていないよな？
　会話が成立してねーもん。
　でも笑顔なのな。
　そんなにオレのことが好きだった？
　飼い猫に好かれまくるオレ、最高の飼い主じゃん。
　でもまつんだ、花遊。
　なんでオレを抱っこするのかな。
　そっち玄関だよな。

『こうやってここを押すと開くって知ってんだー！』

　花遊、ほんとご機嫌だな？
　玄関の開け方を覚えてたのはすごいけど、サンダルを履くことは覚えていなかったのか。
　てくてく裸足で外に出ちまったけど、家の鍵かけさせるのは無理か？
　無理だよな、わかってる。
　
『わぁ、凄いきれいなお姉ちゃん！』

　ぴたっと花遊が止まって、塀の上を歩く白猫を見つめる。
　確かに美猫だな。
　花遊も最高に美猫だけどな。
　
『お姉ちゃんいい毛並みしてるねー、オレと一緒にかつおぶしでもどう？』

　って、おいマテ。
　花遊、オマエなにいきなりナンパしてるんだ？
　
　オレは慌てて周囲をうかがう。
　幸い、周りには誰もいない。
　花遊の腕の中でほっと胸をなでおろす。

　オレは猫好きだけど、さすがに野良猫をナンパするほどじゃない。
　無言で鰹節をあげるぐらいはするけどな。
　
『あー、お姉ちゃん、かつおぶし嫌い……？』

　オレの姿の花遊に見向きもせず、真っ白な美猫はつーんと澄まして去っていく。
　花遊、お前は最高に美猫だしいいやつだしオレの最高of最高だけどな？
　やっぱり、人間姿で猫をナンパするのは無理があると思うんだよ。
　これ以上無茶する前に一緒に家に帰ろうぜ？
　な？

『幸次！　慰めてくれてるんだな？　でも大丈夫なんだぜ。こんなことじゃめげねーの！』

　笑顔で答える花遊に違うーっと頭を抱えたくなるものの、口から出る声は相変わらず「にゃー」
　駄目だこれ、オレには止められねーわ。

　人間になったことに少しも混乱せずに、楽しげに歩く花遊。
　あんまり人通りの多いところに行かないでくれているのがいまのところ救いだけど……って、前からくるの、まさかサンマさんか……？

　花遊の進行方向に、寝子島名物サンマさんが歩いているような、ような。
　ぴくんっと、花遊が反応するのがわかる。

　駄目だぞ？
　あれは、サンマさんであって秋刀魚じゃないぞ？
　わかるよな。
　匂いが違うだろう。
　美味しい匂いなんてしないよな。
　オレの鼻には感じないぞ！

　必死に腕の中で抗議しても、花遊の目はサンマさんにくぎ付け。
　
『でっかいサンマ……どのぐらい美味しいんだろ！』

　美味しくない美味しくない！
　なぁ、まてまてまてっ、人間やめるな？！
　いや、もともと人間じゃなくて猫だけど、それ、オレの身体だから―――――！！！

　じたじたじたじたっ。
　腕の中で暴れて地面の上に飛び降りる。
　幸次の重みがなくなって自由になった花遊は、両手でぎゅー―――――――っとサンマさんを抱きしめる。

『サンマ、大好き！』
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーー！！！」

　がっぶぅううううううううううう！

　幸次の姿で、花遊がサンマさんに噛みついた。

　やめてやめて離れて―――――！！！

　全力で幸次が花遊の足を猫パンチ連打で引き離そうとするけれど、効果は０。
　あぁ、オレ、二度とサンマさんの故郷に行かれないな。どこにあるか知らねーけど。

　幸せそうにサンマさんをかじかじ齧る花遊に、幸次は遠い目をするのだった。