レッツ・スタディ！～大人も子供も学生さんも！～｜リアクション

レッツ・スタディ！～大人も子供も学生さんも！～

「……はぁ……」
　楡宮遠海の唇を、ため息が小さく震わせる。
　そのため息が、本日何度目のものになるかは、遠海にももうわからない。
「……せっかくの夏休み、なぜ学校にいるんだろ……」
　細い声で呟いて、また、ため息。
　８月上旬の某日は、空の青も清々しいほど鮮やかなよい天気。
　本来は夏休み真っ只中であるこの日に、遠海は、夏の制服を着て教室にいる。
　何故かというと、補習である。
　原因は、先日の期末テストだ。
（クーラーが効いてなかったとはいえ、なぜよりによってあんな変な妄想を見てしまったのかしら……）
　ベリーダンスの衣装を着て踊っているたわわな胸をした自分の姿（テスト中の妄想だ）を、思い出す。
　そうだ、自分がスレンダー体型なのは、いい。
　背が高くて、スラリとしているのだっていい。
（でも、胸までスレンダーじゃなくていいじゃない）
　その点に関しては、あの妄想は遠海の意に叶っていたと言えなくもない。
　例えば、遠海の母は、遠海と同じく背が高くてスラリとしたタイプだけれど、
（胸は８８センチもあって、カッコいいのに）
　そこまで考えて、ハッと、遠海は我に返った。
（いけない。補習中なんだったわ）
　慌てて、理科の板書をノートに書き写す。
　かりかりかりかり。響く、ペンがノートの上を走る音。
　その音を耳に、手は止めないままで遠海は考える。
（落としたのが一科目だけで済んだのは良かったって思わないと）
　これで複数の科目を落としていたら、遠海的にとってはもう、絶望的だ。
　想像しただけで、身震いがするような話だった。
（それに、今日はこの前のテストのときみたいにクーラーの調子が悪くないのもいいわね）
　集中して補習を受けることができるのは、有り難い。
　元々、理科はそれなりにわかっていた遠海である。
（だから、あんなことさえなければ、確実に６０点台は取れていたはず）
　とはいえ、だ。
（油断してたら、絶対にまたこの前みたいな妄想にはまり込んじゃう。追試を落としかねないわ）
　――万が一、そうなったら……。
　留年、の二文字が脳裏にちらりと浮かぶ。
　遠海は、その言葉を追い払うようにして、頭をふるふると振った。
（ううん、それだけは絶対に嫌！　夏休み、まだ始まったばかりだし！）
　花火大会に、ネコフェスに、ネコミケに、林間学校だって、遠海のことを待っている！