定食屋『おにざき』でお食事を｜リアクション

定食屋『おにざき』でお食事を

　一方、おにざきに来ていた先生は二人だけではなかった。

「今日のお昼は何にしようかな」
　家の青果店でお手伝いが忙しい宮祀智瑜も、たまには外食をする。
（今日はなんだか素朴な味の物が食べたいです）
　きょろきょろ見て定食屋『おにざき』を発見した智瑜は、まっすぐそちらへ向かった。
（定食もいいですね）
　店内に入ると混んでいて、待ち時間が長そうだと思ったが。
「いらっしゃませ、申し訳ありませんが相席でもよろしいですか？」
　あやめが声をかけた。
「はい、相席でもダイジョブです」
　笑顔で答える綾花。
（すごく食べたいので早いなら相席でも構いません）

　案内されたテーブルに座っていたのは、桐島義弘先生だった。
「義弘先生っ」
「宮祀か。偶然だな」
「こんなところで会えるなんて嬉しいです。運命を感じちゃいます」
　盛り上がる智瑜にあやめが言う。
「お決まりになりましたらお呼び下さい」
「あ、私は日替わり定食と玉子プリンをお願いします」
　さっとメニューに目を通した智瑜がつくしに言う。
　せっかく先生がそばにいるのに、メニューを見つめて悩むなんてもったいない。
「かしこまりました」
　注文を手に去っていくあやめは、智瑜の幸せそうな顔に思う。
（私なら先生と相席なんて嬉しくないですけど、お客様に喜んでもらえてよかったです）
　桐島先生はあやめの去年の担任だった。尊敬はしているが全く好みではない。

「先生は何を頼んだんですか？　プリンも美味しそうですよ」
　勧める智瑜に、義弘先生はなぜかためらう様子を見せた。
「猫島定食だ。プリンは、二つ並ぶのは……ちょっと」
「そうなんですか。え、二つ並ぶのはなにかまずいんですか？」
「……いや、なんでもない、忘れてくれ」
「そうですか。先生が定食屋さんに居るの不思議です。あんまり出会う事がないですから」
「宮祀がここにいるのも意外だな」
「今日はお店が休みでお祖父ちゃんたちが出かけてるんです」
　そんな話をしていると、頼んだものを英二が運んできた。

「いただきます！」
　さっそく智瑜はしらす丼に箸をつける。
「美味しいですね。先生はどうですか？」
「ああ、新鮮な海の幸が美味いな」
「素朴で優しい味が好きです。お祖母ちゃんの作る料理もすごく美味しいけど。ホッとする味です」
「そうか。……私の顔に何かついているか？」
　美味しい定食を味わいつつも智瑜は、ついつい、まじまじと先生が食事をしているところを見てしまう。
「先生の食べてるところを見る機会ってないですから。学校でも私はお弁当持って来て教室で食べてるから学食で出会う事もないですし」
「……何かおかしいか？」
　恋する乙女である智瑜にとっては、ずっと見ていたい光景だ。
「先生、カッコいいですよね」
　にっこり、とそんな発言をする智瑜に、義弘先生は一瞬固まった。
「な……教師をからかうもんじゃない」
「本当です」

　定食を食べ終わった智瑜は、デザートの玉子プリンに手をつける。
　口に入れると蕩ける食感にうっとりしながら。
「味が濃厚で美味しいですね。先生、これを頼まれないのはもったいないですよ。食べなくちゃ」
　智瑜の誘いに、義弘先生の気持ちは動いたようだ。
「鬼崎、玉子プリンを頼む」
「かしこまりました！」
　店の混雑は大分収まっていたが、もちろん、智瑜は空いた席へ移動する気はなかった。
（お腹いっぱい食べれて、普段見れない義弘先生を見られて幸せです）

　やっと一息ついた楓香に、つくしが声をかけた。
「雨崎さん、すいてきたので奥で賄いを食べてください。好きなもの言っていただければ作りますよ！というか叔父さんに作らせます」
「大丈夫だよ。……いいの？　それじゃいただこうかな」
　奥に入るとあやめが賄いを出してくれた。
　少しずつ残ったいろんな材料を集めて作られた賄いは、お店で出せないのがもったいないほど豪華だ。
「うわあ、美味しそう！　いただきます！」
「どう、うちの料理は？」
　尋ねるあやめに満面の笑顔で答える。
「とっても美味しいです！　はじめは緊張したけど、町の人とこうやって交流するの楽しいー！　エプロンもかわいいから気に入っちゃった」　
　話好きな楓香は、時間があるならずっと話していたいくらいだ。バイト中だしそうもいかないのだが。
「なんか居心地いいのは、つくしちゃん家なのもあるけれど、よくみれば学校の先生も食べにきていたり、学校で見知った人もいるからかなぁ」
　食事を終えると元気をチャージした楓香は笑顔で立ちあがった。
「美味しかったです！　ごちそうさまでした！」

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