【星幽塔】第一階層　マダムSの危険な館｜リアクション

【星幽塔】第一階層　マダムSの危険な館

●夕刻、マダムSの館

　あたりが夕闇に包まれようという頃。
　Barアストラルとは別口でマダムＳの屋敷への潜入依頼を受けたティオレ・ユリウェイスが、マダムSの館の裏口を見張っていると、銀髪で可愛らしく、大きな胸をぱつんぱつんのタンクトップに包み、キュートなヒップを丈の短いスカートで隠した少女盗賊が現れた。
　少女――北条冬華は、物陰に隠れているティオレに気付かず、裏口のピッキングに取り掛かる。
　手袋に宿った星の力の助けがあってもなかなかうまくいかずに、苦戦しているようだ。
（危なっかしい子……きっと同じような依頼を受けたんだろうけど、まだ経験が浅いみたいね）
　ピッキングに時間がかかると物音や気配で敵に気づかれる可能性がある。一度失敗したら次に潜入する難易度が上がる。ここは協力し合う方が得策と考えたティオレは、足音を忍ばせ裏口に近づくと、背後から冬華の肩を叩いた。
「きゃ……」
「しっ」
　唇に人差し指を当て、味方よ、と目配せする。
「ここの調査依頼を受けたの？」
「はい……若者の行方不明事件、放っておけません」
「あたしもさ。色々と借りのある相手からの依頼だけに無碍に断れなくてね。マダムＳの噂は聞いているけど、厄介な話になりそうよね」
「ええ、正面から聞いてもまず取り合って貰えないでしょうから、忍び込もうと思ったのですが……」

　丁度そのときである。
　表玄関のほうから「たのもー」という声が聞こえてきた。

◇

「たのもー」

　堂々と正面から行ったのは、千歳飴楓子。
　ややあって、老執事が顔を出す。
「……何か御用ですかな、お嬢さん」
「うむ。ここに若い男を虐げるのが趣味の美女がいると聞いたのだが」

　単刀直入に言った！

「お引き取りを」
「そう急くな。何を隠そう楓子も同じ趣味の持ち主でな」
　突然の告白に、眉を上げて不審そうな顔をする老執事。
　しかし楓子は気にせず続ける。
「楓子自身の容姿も醜くは無いと自負しているのでマダムのお目汚しにはならないだろう。良ければお茶でもしばきながらお話してはくれないだろうか。巷じゃ未成年な事もあり、中々同じ趣味の人と話す機会が無くて寂しいんだ」
　老執事はそれでも楓子を追い返そうとしたが、そのとき館の中からマダムの命じる声がした。
「その子を寝室に通しなさい」
「は、かしこまりました」

◇

　マダムと老執事が表玄関に気を取られている。
　この隙を逃すティオレではない。

「チャンスよ。鍵については任せて」
　ティオレは事前に侵入ルートの策定と鍵の種類の調査を済ませており、使えばいい道具の選定も早かった。
「このタイプの鍵は、このツールを使うといいの」
　手早くツールを差し込み、盗人の光の助けも借りて５秒で開錠。
　ティオレは耳を押し当て人の気配がないのを確認すると、音を立てないように扉を開け、ひらりと中に忍び込む。そこでもまた神経を可能な限り研ぎ澄ませて人の気配や罠などの有無を確認。問題ないとわかると冬華を招き入れる。
（慎重居士もいいところだけど、伊達に数百年、盗賊稼業をやっているわけじゃないからね）
　気配と足音を消して素早く移動するなどお手の物、あっという間に館の廊下の暗がりの中に姿を消す。
「あ、あら……？」
　ティオレを見失った冬華は、廊下を歩きながらきょろきょろする。
「内部構造がよく分からないので……ん？　明かり……？　あの部屋を確認してみましょうか」
　冬華が見つけた明かりのついた部屋は、マダムの寝室。
　そこがどんなに危険な場所かも知らず、警戒心の薄いまま、冬華は廊下を進んでいく。