ボディタッチ日和｜リアクション

ボディタッチ日和

　その日、八神修は部室棟と武道場の間にシートを敷いて、本や資料を運んでは並べていた。
　七夜あおいが通りかかり、ツインテールをこてんと揺らして興味本位に訊ねてくる。
「何をしてるの？」
　想い人の登場に、修ははにかんで答えた。
「虫干しさ。新聞部の資料や本だね。あと、紙ゴミの始末だよ。資源ゴミにね」
　留め針を取ったり写真や付箋は分けないと……一寸手間だね、と苦笑すると、あおいは丁度ひまだから手伝おうかと申し出てくれた。
「ありがとう。すごく助かるな。じゃあ、資料から針を外して、まとめてこの紙紐で縛ってくれる？」
　針外しと紙紐を手渡そうとして、偶然指先と指先が触れる。

　ハッ。

　修は思わず動きを止めた。
　あおいを見る。
　いつも通りの可愛らしいビー玉みたいな瞳と目が合う。

　ドキッ。

　にこっとすると、にこっと返され、修のテンションは爆上げだ！
　雑談もいつも以上に楽しく感じられる。

「夏休みどうする？　里帰り？」
「うん、するよ。弟妹たちにも会いたいし、お母さんもいまからいつ帰ってくるのってうるさいの」
　あおいは関東のとある地方都市出身で、６人兄弟の長女。お母さんも娘に会いたいのもさることながら、夏休みの子どもたち相手の戦力としても期待していることだろう。
「修君は？」
「俺も里帰りする予定だよ。父の馬にも会いたいし」
　そう答えた瞬間、修の指先が紙の縁をなぞり、薄く切れてしまった。
「痛」
　ぷつっと膨らんだ血を舐めとると、あおいが「待って、絆創膏あるよ」とゆるっとしたプリンみたいなキャラクターの絵が描かれたピンク色の絆創膏を巻いてくれた。
「可愛い絆創膏だね」
　そう言いながら、修は、自分の指に触れるあおいの指をほわーんとした気持ちで見つめた。
（手、あったかい……白いし、指、細いな）
「はい、できた。早く良くなるオマジナイ」
　そういって怪我した指をほわっとあおいの両手で包まれると、修の頭はもう真っ白。
（わあああああ）
　照れ隠しに早口で話を振る。
「俺の馬はホースクラブに居るんだ。馬は良いよ」
「そうなの？」
「素直だし優しいよ。今度、乗馬体験してみない？」
「え、私に出来るかな」
「大丈夫大丈夫」
　神魂のせいか、手を放すタイミングを見失って、おまじないの体勢のままなんとなく話を続けるふたり。
　表向きは冷静を装っていたものの、修の心は沸騰しすぎて、ほわあああああと蒸発しそうな勢いである。

　いつも苦労させられるけど、たまにありがとう、神魂！

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