うみねこで夏の味覚を｜リアクション

うみねこで夏の味覚を

●悲しみは通り雨のようなもの

「定食のカンパチ、お造りのカンパチがダブっちゃったけど、ま、いいか」
　刺身を食べた水谷真優理は、お酒がほしくなったので冷酒を追加注文。
　酒はそれなりに強いが、調子に乗って酔っぱらうのはみっともない。
　未成年者の前でそれはやってはいけないと、飲酒はほどほどに。
　絢ちゃん可愛いと思いながら、青山絢が魚介ばくだん丼を食べる姿を持ってたデジカメで写す。
「真優理さん、もうお酒飲んでるんですか……。それと、写真を撮らないでください……」
　調子に乗って羽目を外したら恥ずかしいと心配していたが、それは大丈夫そうだ。

　注文したものを分け合って食べたり、美味しいわねと、しばらくは和気藹々としていたが、絢の一言で、その雰囲気が変わった。
「真優理さん、この前の墓参りの時……」
　この前の墓参り、というのは、期末テスト返却から数日後の日曜日のこと。
　真優理は、付き添いで天蓼市郊外にある絢の母の墓参りに同行した。
　絢が中学一年生の時、度重なる辛い出来事によるショックで心に深い傷を負った。
　高校生になり様々な出来事や体験をすることで、精神的な痛手から立ち直ったかのように見えた。
　そう思った真優理だったが、絢が微笑むことで、自分自身をかえって傷つけているようにも思えてきた。
　絢を元気づけるべく、胸を痛めながら明るく、陽気な従姉として振舞う。絢を悲しませたくない、心配かけさせたくないから。
　だが、この日は、いつものように振る舞えなかった。
　悲しい。声をあげて泣きたいけど泣けない。
　絢の思いが強く伝わってきたからなのか、夏の夕立の中、真優理は絢を後ろから抱きすくめ、声を押し殺して泣いた。

　墓参りの時、つい泣いてしまったことを真優理は覚えている。
（それしかできないなんて、本当に無力すぎるわ……）
　その思いを表面に見せまいと、残った冷酒を一口飲む。
「あの日のことは気にしないで。夏メニューを美味しくいただきましょう」
　こんなにあるんだから、シェアして食べましょう、と誤魔化す。
「……考えても仕方ないわね」
　いつまでもあの日のことを引き摺っていては前に進めない。だから、今は美味しいご飯を食べよう。
　絢は、カンパチのお刺身を分けてもらい一口食べた。
「……美味しい」
「一口かき揚げも美味しいわよ」
　あの時ことを忘れようと真優理は明るく振る舞い、絢を元気づけた。
　その思いが伝わったのか、絢の表情が少し和らいでだ。
　食事を済ませると、絢は先に店の外へ。
　真優理がお勘定を済ませると、ハルコが紙袋を手渡した。
「これ、あの子に渡しとくれ。これ食べて元気出してって」
　袋の中身は、出来立ての枝豆とナス、車エビの一口かき揚げだった。
「ありがとう、おばさん。絢ちゃん、喜ぶわ」
　帰り道、絢はハルコがくれた一口かき揚げが入った紙袋をそっと抱き締めて微笑んだ。

　『うみねこ』の営業時間は終わったが、店内や厨房の清掃作業といった仕事が残っている。
　天満七星、八神修、李小麗は、最後まで手伝うと決めたので頑張っている。
　綾辻綾花と鳴鏡院総悟は、洗い終わった食器を棚に戻す。
　店じまいが終わったので、ケンゾウは手伝い賃代わりとして手伝ってくれた３人に一口かき揚げを持たせた。
「これ食って、明日も頑張ってくれ。手伝いに来てくれた奴はご苦労さん。すごく助かったぜ」
　綾花は、買った一口かき揚げを抱えて明日も頑張ろう、と張り切る。

　明日も『うみねこ』は忙しくなるだろうが、魚戸夫妻とアルバイトは暑さに負けず働いている。
　足を運んでくれた客に、夏定食を食べてもらうために。

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あとがき

担当マスター：カターレ
ファンレターはマスターページから！

カターレです。大変お待たせいたしました。

うみねこ春定食のシナリオガイドが公開されたのは、2017年3月のことでした。
2年ほど間が空きましたが、うみねこ夏限定メニューのシナリオガイドを公開しました。

リアルタイムでは春が近づいていますが、らっかみ！タイムでは8月上旬、猛暑な時期です。
夏定食を食べに来た皆様、暑い中、ご来店されたことと思います。
夏が旬の食材を使った料理、美味しく召し上がっていただけたでしょうか。

秋定食も予定しておりますが、今度はどれくらい間が空くのかはわかりません。
秋の旬の食材を使ったメニュー、楽しみにしておまちください。

申し訳ございませんが、個別あとがきは今回は無しとさせていただきます。ご了承ください。

ご参加、ありがとうございました。

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