寝子島いい風マップ｜リアクション

寝子島いい風マップ

●風はいいものです

　ペルラ・サナーレは星幽塔から寝子島へ降り立った。そんな彼女を迎えたのは、夏特有の強い日差しだった。

「この暑さは砂漠のそれとは違いますね。湿気がありますし、服を着ていると体温を逃がしにくい暑さです」

　パタパタと扇ぎながらどうにかやり過ごそうとするペルラ。街を歩いているとどこからかセミの鳴き声が聞こえてくる。この季節の風物詩でもある。

「セミというのはあまりなれていませんが、命を感じられて、私は好きです。少し、おいしそうですし」

　セミたちへの感想を述べつつ、なおも続く暑さへの対策を考える。ひとまず目についた公園に入り、ベンチに腰を下ろした。このままでは干からびてしまうのでは、などと考えていたら、ふと風が吹いているのを感じた。

「……いい風が吹いていますね」

　周りを観察してみると、この公園は開けているから風が通りやすいのだろうと推察できた。

「この風なら、子どもたちも暑さにやられずに済みそうですね」

　肌で風を感じるうちに、その風に潮のにおいが含まれていることに気づく。おそらく海からの風なのだろう。

「することもありませんし、風を追いかけてみましょうか」

　ペルラはベンチから立ちあがると、風の吹いてくるほうへ向かって歩きだした。寝子島の景色を楽しみながら、やがで細い道にたどり着く。

「この道から吹いていますね」

　細いといっても通行には問題ない幅なので、構わず進んでいく。涼しいからだろうか、野良猫も塀の上で休んでいる。その後も風を追いかけ続けて、やがてエノコロ岬に到着した。

「ふう、結構歩きましたが、ここが陸の行き止まりのようです」

　ここからの景色は海がどこまでも広がっていた。それに海からの風が心地いい。

（世界は違っても、心地よい風は良いものですね。風はいつでも変化を起こしてくれます。時には嵐のように吹き荒れますが……最終的には、風は良いものです）

　潮のにおいを引き連れた風を受けながら、ペトラはそんなことを思った。自販機で飲み物を買うと、ベンチに腰掛けて海を眺める。

「遠くに大きな船が浮かんでいますね。どこに向かうのでしょうか。……もっとも、この世界の地理には詳しくないのですが」

　ペルラの視線の先にあるのはおそらく旅客船だろう。しばらくその船を眺めていた。

「どなたかは存じませんが、いい航海でありますように。……そろそろ、夕凪でしょうか」

　そう呟くと、腰をあげてエノコロ岬を後にした。

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