寝子島いい風マップ｜リアクション

寝子島いい風マップ

●暑いのは苦手

「暑いのは……やっぱり、好きじゃない……」

　恵御納夏朝は容赦なく照りつける太陽に手をかざしながら見上げる。雲はあるが、気休め程度に時々日差しを遮る程度だった。桜花寮を出てからそこまで時間は経っていないのに、すでに暑さにやられそうだ。
　夏朝は日陰を見つけると、壁を背にして覗き込まれないように気をつけてNyaphoneを操作する。慣れた手つきで『ねこったー』にアクセスすると、情報を検索する。

「何か怖くなくて、涼しい情報は……あれ？　『寝子島いい風マップ』？」

　どうやら寝子島中の『暑くてもいい風が吹くポイント』を記した地図のアプリらしい。開いてみると、誰でも編集可能らしく、すでに色々な場所にチェックが付いている。

（暑くてもいい風が吹くポイント……そこなら、少しは涼しいかな……猫さん、いるかな……？）

　この暑さを回避するように、夏朝はアプリを頼りに歩くことにした。しかし移動中も油断はできない。暑くてじわじわするのは変わらないから。日傘代わりに折りたたみ傘を差し、できるだけ日陰を歩く。
　水分補給も忘れないように気をつけつつ、立ち止まってはアプリを確認する。

（……この風、ちょっといい風かも……？）

　寝子島街道を歩いてると、ふと気になる風に出会った。

（向かい風になるけど、この風の方向へ行ってみようかな）

　その視線はエノコロ岬に向いている。寝子島街道から寝子電本線を横切って、道なりに進んでいく。しばらく歩くと、エノコロ岬に到着した。街とは違う景色と海が夏朝を迎える。

「いい風が吹いてる……灯台の影なら風も相まって涼しいかな」

　そう思って足を灯台に向ける。夏朝の予想通り、灯台の影は涼しい風が流れていた。その風に身を委ねるように灯台にもたれる。

「あっ……猫さん達だ！」

　ふと隣をみれば、猫達がそれぞれ自由気ままに過ごしている。

（猫さん達も、いい風を探して涼みに来たのかな？　可愛いなぁ……見ていて幸せになれる……）

　撫でたくもじゃらしたくもなるが、せっかく猫たちが涼んでいるところだからと思い、夏朝はそっと眺めるだけに留めた。

（猫さん達をそっとしておきたいし……マップに書くのも控えておこうかな）
（ごめんね、ねこったーの人たち……！）

　それから少しの間、涼しい風を猫達と堪能した。

「僕は別のいい風を探しにいくよ」

　猫達にそう告げると、灯台から離れる。

「次の場所でも猫さん見かけられたらいいな」

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