寝子島いい風マップ｜リアクション

寝子島いい風マップ

●癒しの風

「今日もむちゃくちゃ暑いんですけどー？」

　朝。
　落合まゆらは旧市街にあるアパートを出ると、率直な感想を漏らした。自己主張の強い太陽はその日差しを弱めるつもりはなさそうだ。

（なんというか、もう愚痴る気すら起きない。この前は酷暑が極まって黒歴史なことをしでかしちゃったし……）

　そのときの水着などがふっと浮かんできて、すぐさま記憶の片隅に押し込んだ。家に居れば快適とは言いがたいが、この日光を浴びるのは避けられる。
　しかしそうはいかない。通っている専門学校は夏休みだが、アルバイトが入っているため行かなくてはならない。
　まゆらは『CamicieＸrosse!! 』というファミリーレストランで働いている。その店が星ヶ丘にあるため、道中はこの暑さと格闘する羽目になる。できるだけ日陰になっている場所を進み、暑さに耐えながら、どうにかアルバイト先に到着した。
　その日は朝から夕方まで一日中働いた。身支度を終えて、店を出ると日はすっかり落ちている。疲れた体をなんとか動かして、自分の住むアパートへ帰ろうと星ヶ丘駅に向かう。

（……なんか海でも見ようかな）

　これといった理由もなく、ふとそんな気分になった。まゆらは星ヶ丘駅を横目に星ヶ丘マリーナへ向かう。海沿いの道を歩いていると、浜風が吹き付けてきてとても心地よい。風に吹かれているだけでも十分に癒し効果があるというか、とてもいい気分だ。
　のんびり歩いているうちに目的地の星ヶ丘マリーナへたどり着く。そこには何艘ものヨットやクルーザーが係留されていた。

（これって、いったいいくらするんだろう？）

　ふとそんな考えが頭によぎるが、それよりもここから夜の海を眺めつつ、気持ちのいい風に吹かれる爽快感を堪能する。

（なんだか今までのことがどうでもよくなってきた。月も綺麗だし）

　見上げると、そこには今日感じた太陽とは対照的に静かに佇む月があった。すっかり癒されたまゆらは、軽い足取りで星ヶ丘駅へ向かった。

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