真夜中の訪問者｜リアクション

真夜中の訪問者

　玲音はふと目を開けた。部屋の中は真っ暗で、まだ夜のようだ。
「あれ？」
　下の階、店や玄関の方から、ドアをノックするような音がしている。しばらくそうしていたが、両親が起きて対応する気配はない。
　耐えかねて、玲音は布団から出た。
「誰ですかー？」
　そう呼び掛けてみるが、返事はない。ノックの音だけが続いている。
　玲音は玄関のドアのところに設置されている防犯カメラの映像を見てみることにした。
「うーん……知ってる人じゃないっぽい？」
　ドアの前に立っているのは顔のない男。カメラの光の加減なのかもしれないが、まったく表情が見えない。
　玲音の家は一階がサイクルショップ『CatBiCycle』、階段を通って二階が居住区になっているため、侵入は階段を使わざるを得ないだろう。
　玲音は少し考え、
「このままじゃ寝れないし、追い返さないと、だよね」
　そう決意した。
「とりあえず玄関のドアチェーンをかけよ。あ、お店からくるかもしれないから、通路の鍵もかけちゃお」
　侵入口の施錠を済ませた玲音は迎え撃つ準備に移った。まず、水鉄砲と空気入れと風船、そして母が掃除の時に使っている液体ワックスを持って階段を上がりつつ、ビー玉をそこら中に散らばらせる。その上から階段全体にワックスをかけ、滑りを良くしておいた。最後に階段の一番上にボールを置く。
　準備ができると同時に、ドアがぶち破られる音がした。
「さあ、いつ来ても良いんだよだよ！」
　訪問者は施錠をものともせず、すぐに階段の下に現れた。階段に足をかけた途端、ばらまいておいたはずのビー玉が煙のように消えてしまった。
「なんでなんで！？」
　訪問者は魔法でも使うのだろうか？　玲音が動揺している間にも彼はゆっくりと階段を上って来る。ワックスをぶちまけておいたおかげか、動きは鈍い。
　玲音は急いで水鉄砲、空気入れを使って水風船を作った。それを手に振りかぶる。
「上って、来るなー！」
　思いっきり投てき。水風船は見事、訪問者の頭部に直撃した。バランスを崩して足を滑らせ、入り口の方へと転びながら落ちて行く。
「今だねだね！」
　玲音はボールを抱えると、一緒に持ってきた雪遊び用のソリに乗り込んだ。
「いっけー！」
　ワックスの階段から一気に滑り落ち、入り口のところで立ち上がろうとしていた訪問者にダイレクトアタック。さらに吹っ飛んだのでソリから降りて、ボールをセットし、訪問者目掛けて蹴っ飛ばした。
　さすがに二連コンボが効いたのか、訪問者は慌てた様子で逃げ帰って行ったのだった。

このページにイラストを設定する