コンビニ寄ってこ！｜リアクション

コンビニ寄ってこ！

　自転車を漕いで、綾辻綾花はコンビニへとやってきた。
　自動ドアを潜ってすぐに、目当てのコーナーが目に入る。
（あった、ねむりにゃんこくじ……！）
　そう、綾花はこれを求めて、ここまでやってきたのだ。
　お目当ては、Ａ賞の大きなぬいぐるみ。
　丸くなっている子もいれば、お腹を出したポーズで寝ている子もいて、とにかく可愛い。
　あの子達をお迎えするために使われるなら、アルバイト代も本望だろう。
（でも、沢山は引けないから……３回だけ！）
　願いを込めていざレジへ……と思ったその時、
「……あれ？　綾辻さん？」
　耳心地のいい声に、背後から名前を呼ばれた。
　パッと弾かれたように振り返れば、そこには、早川珪先生の姿が。
　まさか、コンビニで顔を合わせることになるとは思っていなかった。
　不意打ちすぎて、心臓が、どきどきと跳ね回る。
「こ、こんにちは、珪先生」
「こんにちは。もしかして、そこのくじを引きにきたのかな？」
「へ！？」
　まだ何も言っていないのに、笑顔で言い当てられてしまった。
　綾花が驚きに声を跳ねさせたのに、「ごめん、ごめん」と早川先生は軽やかに笑む。
「こう、雰囲気でね、そうかなって。やるぞ！　っていうオーラが出てたから」
「出ちゃってましたか……」
「出ちゃってたね」
　繰り返して、早川先生はまた笑った。
「ねむりにゃんこくじ、可愛いですよね」
「そうだね。愛らしいと思うよ。綾辻さんのお目当ては？」
「Ａ賞です」
「ぬいぐるみか。確かに可愛いね。健闘を祈ってるよ」
　かくして、綾花は改めてレジへと向かった。
　緊張の１回目。
　当たったのは、Ｃ賞のグラスだ。
　すやすやと眠っている猫が、沢山プリントされていて、何とも可愛らしい。
　２回目もＣ賞のグラスで、１回目のものとは色違いだった。
（次が最後……！）
　えいっ！　と引いたそれは、Ｄ賞のチャームだったが、
「おめでとうございます！　こちら、ラストニャン賞になります！」
　と、感じのいい店員さんが、Ａ賞のものよりも更に大きなぬいぐるみを出してきてくれた。
「わ、やりました！」
　振り返って、少し奥の棚で文房具を見ていた早川先生に、声を投げる。
「珪先生、ありがとうございます！」
　早川先生に偶然に会えたラッキーがくじにも出た！　と綾花は思ったのだが、
「……？」
　突然にお礼を言われて、当の早川先生は不思議そうに小さく首を傾けた。

「もう、可愛すぎます！　それに手触り抜群のもふもふ感……」
「良かったね、綾辻さん」
「はい！　早く寮に帰って抱き付きたいです。先生も抱き付きますか？」
「抱き付く……のは、やめておこうかな。でも、じゃあ記念に」
　と、早川先生は、綾花が何とか抱えているぬいぐるみの頭を、ぽむぽむと撫でた。
「……でもこれ、どうやって持って帰ろうかな……」
　ぬいぐるみは、かなりの大きさだ。
　自転車のかごには乗らないし、抱えているだけで精一杯で、自転車を押しながら帰ることもできない。
「あの……珪先生、少しお時間ありますか？」
　手伝ってもらえたらすごく助かる、という旨を伝えると、早川先生はくすりとして、
「このまま放って帰るのも、心配だしね。危ないから、その子は僕が持つよ」
　と、請け負ってくれた。
「ぬいぐるみ、うちのにゃんこにも気に入ってくれると良いけど」
　なんて、自転車を押しながら綾花が呟けば、
「そうだといいね」
　と、ぬいぐるみを抱えた早川先生も、こくと頷いた。