コンビニ寄ってこ！｜リアクション

コンビニ寄ってこ！

　鴻上彰尋は、普段、あまりコンビニを利用しない。ただ、今日は、
「……あ。牛乳、もうないのか……」
　という具合で、急ぎ、近所のコンビニに向かうことになった。
　商店街やスーパーマーケットまで足を伸ばすという選択肢もないではなかったが、
（そういえば……）
　と、家を出て間もなく、ふと、ある少女の笑顔が脳裏を掠めて、行き先は変えようがなくなった。
　――あのね、すっごく美味しいコンビニスイーツがあって……。
　弾む声で彰尋にそう語ったのは、七夜あおい。
　季節限定なんだよ！　という部分は重々しく告げた彼女の、その表情はどこまでも真剣で、
　――って、彰尋くん、何で笑うの！
　なんて調子で、思わずくすりとしてしまった彰尋は、むうと唇を尖らされてしまった。
（本当に美味しいのに、って、言ってたっけ。まだ残っているかな？）
　そして、コンビニにて。
　牛乳を買いに来たはずなのに、彰尋の足は、真っ直ぐスイーツのコーナーを目指してしまう。
　それの姿を見留めた時には、思わず、声が漏れた。
「……あ、あった『ゆずレアチーズ』」
　確かに美味しそうだと、手に取ったそれを検めながら思う。
　人気の品のようで、『ゆずレアチーズ』は、彰尋の持っている分も含めて３つしかなかった。
（家族分には足りないし、俺１人でこっそり食べるしかないかな）
　しょうがないけれど申し訳もない、という次第で、シュークリームを人数分、買い物かごに入れる。
「あれ？　彰尋くん？」
　と、名前を呼ばれたのは、その時だった。
「っ……！」
　慌てて、がば、と振り返る。
　彰尋と同じく買い物かごを手に、あおいが明るく笑っていた。
「あ、あおいさん……」
「そんなにびっくりすることかなぁ？　こんにちは、彰尋くん」
「こんにちは。その、偶然だね」
　言いながら、彰尋、さりげなくかごの中身を弄って、シュークリーム達で『ゆずレアチーズ』を隠している。
　何とはなしに、気恥ずかしいような心持ちがしたのだ。けれど。
「あ！　彰尋くんも『ゆずレアチーズ』、買うんだ」
　と、途端に、件の品を見い出されてしまった。
「いや、あの……ちょっと気になったから……」
「うんうん、大正解だよ。食べなきゃ損だもん。季節限定だしね、うん」
　彰尋が、内心、大いに焦っているのには気付かずに、あおいは満足げに頷いている。
「この間なんて、彰尋くん、私がお勧めしてるのに笑うんだもんね」
「あれは……」
　甘味の話に一生懸命になる姿が何だか愛らしかったのだ、とは説明できない。
　だから、それ以上の追及なく、あおいがにぱっと笑ったのは僥倖だった。
「本当に、本当に美味しいからね！　そうだ！　食べたら、報告してほしいな」
「えっと、学校で？」
「うーん、できたらＮＹＡＩＮで！」
　お気に入りのスイーツの美味しさについて語り合いたいのだと、力説するあおい。
「わかった。じゃあ、連絡する」
「うん、待ってるね。……って、いけない！　私も、これを買いに来たんだった！」
　残り２つの『ゆずレアチーズ』のうちの１つを、あおいが手に取る。
　あおいのにこにこ顔にそっと眦を下げたところで、彰尋はやっと、牛乳の存在を思い出した。

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