コンビニ寄ってこ！｜リアクション

コンビニ寄ってこ！

　とある日曜日のお昼前。
　常からの暑さが余計に増したようなそんな日に、御巫時子はコンビニの傍を通りかかった。
（今日はいつもより暑いですし、少し涼んでいきましょうか）
　店内へと一歩足を踏み入れれば、ひんやりとした空気が、身体に染みる。
（やっぱり、コンビニは涼しいですね）
　なんて思いながら、時子は買い物かごを手に、ゆるゆると店内を見て回った。と、
「……あら？」
　ふと目に留まったのは、新商品のプレミアムアップルティー。
　何でもコンビニ限定だというそれを、時子は、そっとかごの中に入れた。
　そうして、何気なく、視線を隣の隣くらいにあるお弁当のコーナーに移せば、
「……尚輝先生？」
　そこに立っていたのは、時子が零した通りに、五十嵐尚輝先生だった。
　何やら考え込んでいる様子の五十嵐先生の元へと歩み寄って、時子は柔らかに言った。
「尚輝先生、おはようございます……」
「おや、御巫さん。おはようございます」
　会釈をすれば、向こうも、つられたように頭を下げる。
「お昼のお弁当を選んでらっしゃるんですか？」
「ええ、はい。カップ麺と悩んだんですが、今日は、お弁当が少し安いみたいなので」
　五十嵐先生に少しでも健康的な食事を摂ってほしい時子からしてみれば、
（これは、コンビニに感謝しなくてはいけませんかもしれません……）
　という具合の、何とも気の利いたキャンペーンだ。
　だがしかし、慢心はいけない。
　五十嵐先生の手元を見れば、そこには、白いご飯に、どん！　と唐揚げを乗せただけのお弁当。
　いかにも美味しそうだが、野菜要素はほぼゼロである。
「……あの、尚輝先生」
「はい？」
「こちらの、ハンバーグ弁当はどうですか？」
「ハンバーグ……ハンバーグも、いいですね」
「なら、是非……！」
　時子がハンバーグ弁当を熱く推すのは、こちらには、野菜のおかずもたっぷり入っているからだ。
（白和えときんぴらに、ご飯は雑穀ブレンド。先生には、もっとしっかり食べていただきたいので……）
　時子の真摯な眼差しに負けたのか、五十嵐先生は、
「じゃあ、今日はハンバーグ弁当で」
　と、唐揚げ弁当を棚に戻した。
　ほう、と安堵の息を吐く時子。
「先生には、できれば３食きちんと食べていただきたいです。明日は、お弁当持って行きますね……」
　今日のお昼がハンバーグなら、明日のお弁当のおかずは魚にしよう、と思う。
「そうだ。時々は、アパートに帰られてますか……？」
　アパートなら、台所があるだろう。
　きちんと料理をしているのかが、気になった。
　五十嵐先生が入り浸って（？）いる実験室では、調理は難しい。
「ええと、偶には」
「調理道具は揃ってますか……？」
「調理道具……どうだったかな……」
　自分の家のことを尋ねられているのに、顎に手を宛がい、首を傾げる五十嵐先生。
　これは益々、明日のお弁当の内容を、充実させなくては。
「じゃあ、えっと……これから学校ですか？　それともアパート？」
「学校に戻る予定です」
「夏休み中はどうされますか……？」
「まあ、大体学校にいますね」
「でしたら、時々会いに行きますね……」
　アパートに帰ってほしいという思いもあるので、時子の心持ちは何とも複雑だが、
（夏休みは、先生にあまり会えなくて寂しいだろうと思っていたんですが……）
　という具合なもので、少し、気持ちが上向いてしまったりもする。
「早めに行くかもしれません。先生の寝顔、見てみたいですから……」
　なんてくすりと笑えば、
「それは……気をつけなくてはいけませんね」
　と、五十嵐先生は真面目な声音で言った。
　２人でレジに向かって、時子はアップルティーを、五十嵐先生はお弁当を購入する。
　帰りは途中まで一緒に行けたらいいなと、時子は財布を出しながら思った。