コンビニ寄ってこ！｜リアクション

コンビニ寄ってこ！

　宮祀智瑜には、コンビニに行くたびに気になっているものがあった。
　――『懐かしの美少女たち』くじ。
　ちょっと昔に流行った美少女ゲームのヒロイン達のグッズを集めた、コンビニ限定のくじだ。
　気になっているとは言っても、ラインナップは、智瑜が見たこともないキャラクターが多いくらいなのだが、
（やっぱり、義弘先生の部屋で見たおっぱいマウスパッドの女の子にそっくり）
　と、智瑜は今日も、コンビニの目立つ場所に貼られたくじの案内を眺めて、思う。
　あの、見覚えのある１人の美少女。
　もしも彼女のグッズをプレゼントできたら、桐島義弘先生はどんな顔をするだろう？
　そう考えながらも、目当てのキャラクターは１人だけとあって、智瑜は、中々くじを引けずにいた。
（でも、今日こそは！）
　意を決してレジに向かい、くじを引く。
　どきどきと、心臓が跳ねた。当たったのは――、
（……Ｂ賞。しかも、知らない女の子……）
　がっくりと肩を落としかけた智瑜へと、店員が「おめでとうございます！」と声を投げた。
「こちらのくじ、これが最後だったんですよ。なので……こちら、ラストニャン賞です！」
「ふぁっ！？」
　景品を手渡されると同時に声が漏れたのは、それが、あのキャラクターのフィギュアだったから。
（奇跡みたい！）
　と思っていたところに、もう一つ、希有な偶然が起こった。
　当の桐島先生が、コンビニへと、丁度足を踏み入れたのだ。
「あ、先生！　見てください、当たりました！」
　興奮と嬉しさに声を華やがせながらラストニャン賞の景品を掲げれば、
「っ、それは、ラストニャン賞の……！」
　まで言いかけて、桐島先生はゴホン！　と大きく咳をした。
「ラストニャン賞だったんですよ！」
「勿論知って……いや、そ、そうなのか……」
「先生は、くじを引かれましたか？」
「それは……まあ、その……」
　明確な返事は貰えなかったが、挑戦しているのでは？　と智瑜は推察する。
「あの……もしかして、同じもの、持ってらっしゃいますか……？」
　おずおずと尋ねれば、「とんでもない！」と声を張ったあとで、桐島先生はまたゴホン。
「……宮祀。これは一般論だが、ラストニャン賞は、そう簡単には手に入らないものだ」
「成る程、そうでしたか」
　良かった、と言いかけて、智瑜はその言葉を飲み込んだ。
　そして――桐島先生にこのフィギュアを貰ってもらうための策を、頭の中で練り始める。
（プレゼントしたいけど、たぶん受け取りにくいだろうな）
　品が品だし、そうでなくても、相手は真面目を絵に描いたような桐島先生である。
（……よし！）
　暫しの思案のあと、智瑜は、早速作戦を開始した。
「先生、実は私、すごく困ってるんです……」
　しゅん、としてみせれば、「どうした？」と桐島先生が問う。
「私、別のキャラが目当てだったんです。だからこれ、どうしようって……」
「え……」
「そんなに貴重な物なら、捨ててしまうのは勿体ないですよね」
「な……！」
「どなたか、快く貰ってくれる方がいたら、とっても助かるんですけど……」
　ここで智瑜、顔を上げて、渾身の上目遣い！
「もし、その心優しい方がタダで貰うのは気が引けるというなら、くじ１回分のお菓子と交換とか……」
「あ、あー、宮祀。その、だなぁ……」
　このあとの細かなやり取りは、（桐島先生の言い分がものすごーく長いので）ご想像にお任せしたい。
　けれど、智瑜はお菓子を手に入れ、桐島先生に件の品を手渡すこともできた。
「そういえば先生って、その女の子のどこが好きなんですか？」
「っ、わ、私は宮祀が困っているというからこの子を引き取ったのであって、別にそういうのでは……」
　桐島先生はそう主張するが、やっぱりおっぱいだろうかと、智瑜は勝手に考えた。

このページにイラストを設定する