らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～

●月光の下で（夢宮瑠奈）

「わあ……！」
　夢宮瑠奈はその薄桃色の唇から、小さく可愛らしい声を上げた。信じられなかった。目の前にあるのは、静かな水辺。その上にぽっかり浮かぶのは。
「何て綺麗なんだろう……」
　大きな大きなお月様だった。明かりはないのに、月光が白銀の光で辺りを照らす。きらきらきらきら。降り注ぐ月の雫は水面に落ち、穏やかな波に散る間際、跳ね上げられるように七色の燦めきを放つのだ。木々はさわりとその柔らかな緑の葉を薄紫色の夜空に優しく揺らしていた。
　瑠奈は恐る恐る透明な水に足を浸した。
「……つめたいっ」
　柔らかな白菫色のワンピースの裾をきゅっと掴み、瑠奈は思わず綺麗な焦げ茶色の瞳を閉じる。その口の端は楽しそうに上がっていた。１歩、２歩。ゆっくりと前へ進む。そうしてくるりと後ろを向いた。

「ねぇ、とっても綺麗だよ」

　確かに言葉を投げた。だって、そこに大事な人がいると分かっていたから。……大事な人？　誰？
　顔が見えない。大事な人だと分かっているのに。ぼんやりと優しく佇むその人は誰だろう。
「……ママ……？」
　月光を浴びながら小さく呟いてみた。ママ、なのかな。ママだったらとっても嬉しい。
「ここって月のステージみたいだよね。歌ってみようかな」
　瑠奈は小さく微笑むと、かの人に背を向け、お月様に向き直る。そして華奢な両腕を広げると夜空いっぱいに歌声を響かせ始めた。
　煌めく光。煌めく歌声。それは魔法のようにプリズム１つ１つに溶け、空気に散りばめられる。瑠奈は想いを込めて歌った。それに呼応するように水面から月の雫が次から次へとキラキラと立ち上る。それが瑠奈の想いのプリズムと出会う時、パチンと愛を弾けさせるのだ。
　白銀の世界の中、歌声を夜空に響かせ七色の光に包まれる彼女は、アイドル。それは偶像なのかもしれない。愛の女神を象った、偶像。でも、それでいいではないか。女神でない自分が、愛を象った何かになれるのなら、いいではないか。

「……♪」
　最後のフレーズを歌い終えると、瑠奈はゆっくりと振り向いた。かの人は変わらず自分を見つめ、優しく微笑んでくれている。
「……そっか」
　瑠奈は嬉しそうにその長い睫を伏せた。あなたは、ママであり、ママでない。あなたは、とっても大事な人。ママであり、パパであり、あたしのお友達であり、せれねのファンの人達であり、これから出会う全ての優しい人達。あたしの背中を見守り、そっと押してくれる、大事な大事な人。
　瑠奈はスッと顔を上げると、おぼろげに佇むかの人に向き直る。そしてぺこりと頭を下げた。
「これからも、頑張ります！」
　笑顔を届けよう。あなたのために。みんなのために。自分のために。―――うん、ほんとに頑張らなくっちゃ！

「よーし！」
　瑠奈はワンピースの裾を掴むと、柔らかな亜麻色のサイドテールを揺らし、元気よく走り出した。
　きらきら輝く水を跳ね上げ、笑顔で走る瑠奈。大きな大きなお月様が、いつまでも彼女を明るく照らしていた。