らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～

●フェイクレザーの兎は極彩色の夢を見るか？（青山絢）

　【兎】……ウサギ目ウサギ科に属する獣。
　兎と言えば一般的にこうだろう。しかし、ヒトとは不思議なものだ。兎をもう１種類、妄想想像から創造してしまった。

【バニー】……ウサ耳とウサ尻尾をつけ、躰の線を強調するような衣装を着けたヒト。

（また、バニー……）
　青山絢は、軽く溜息をついた。そう、「また」なのだ。今更深い溜息をつくほどではない。
　寝子島に来てから、何度バニーになった事だろう。こういうのは「ゆゆしき事態」と言っていいのではないか。普通の女子高生の絢にとっては、これはかなりセクシーな状態なのだから。

　黒光りする肩出しのハイレグバニースーツ。彼女の整い始めた胸の盛り上がりを無理矢理覆う、光沢のあるフェイクレザーがミスマッチだ。１７歳の肢体を包むには余りにもハードすぎるボンテージ風のそれは、若々しいエネルギーすら性的なものに変えてしまう。
　脚には、ガーターストッキング。ほんのりとだけ透ける黒が、足先から太股まで覆い、繊細な幅広レースの先はしっとりした白い肌の絶対領域が晒されている。
　手首には、カフス。そう、首から肩、腕は全て剝き出しなのに、手首だけしっかりと覆っているのだ。それがまた彼女の細い腕を強調し、本来は晒されるべきではない清楚な肌に、どうしても意識がいってしまう。
　そして頭には言うまでもなく、兎耳のヘアバンド。そもそもバニーガールの暗喩が兎の発情期ときたら……確かに普通の女の子なら溜息の１つもつきたくなるというものだ。

　この島で一体自分は何を求められているのか。何を求めているのか。絢は自分の姿を俯瞰しながら考える。
　従姉に縋るように来たらっかみ伝説のあるこの寝子島で、色々な事があった。
　バニーだけじゃなくて、バンドゥビキニ姿でマラソンをした事もあった。それを言うならリボンだけ巻いて走った事もある。夢か現かスリングショットの水着でタイムアタックした事もあったし、いやいやもっと言うならノーパン、ノーブラの危機に陥った事まで。
（よくよく考えると、私結構な目に遭ってるわね）
　そう思いながらも、絢の淡いピンクの唇は綻んでいた。
　ここに来る前は考えられなかった。こんなハチャメチャな生活が待ってるなんて。
　でもだからって嫌な訳ではない。新しい事がどんどん起こり、ほんの少しずつだけど自分が変わっていっている気がする。心の傷はまだ癒えないけれど、それでも前へ。
（バニーで進むのもどうかと思うけどね）
　絢はくすりと笑った。元からいざという時の度胸はあった方だが、寝子島に来てからはもっと度胸がついた気がする。……言い換えれば、図太くなった？

　その時、遠くから声がした。
「絢ちゃーん、ご指名だよー」
　気付けば、そこは煌びやかで騒がしいホール。革張りのソファには兎耳と男性客が寄り添い、そこかしこから嬌声が上がる。絢が声をした方を振り向けば、支配人が（VIP席だからね）と口をパクパクさせた。
（これ、夢なのかしら……？）
　そう思いながらも、絢はスポットライトが当たったような店の通路を眺める。そして一呼吸置くと、ハイヒールをものともせず、しっかりした足取りで歩き出した。
　いいではないか、乗ろうではないか。これが夢だとしても、神が息づく寝子島での日々がそもそも夢のようではないか。

　神様に踊らされているなら、バニーで踊ってみるのも悪くない。

　歩く絢に店中の視線が集まる。彼女の肢体に男の欲望と女の嫉妬の視線が絡み合う。
　それすらも糧にし、絢は店の中央で振り向くと妖艶に微笑んだ。

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