らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～

●ブルー（志波高久）

　何もかもが削ぎ落とされたレーサーを発走機にセットする。一息ついた志波高久が空を仰ぐと、一面のブルーが広がっていた。
　高久は目を細め一人微笑む。その影がくっきりとバンクに落ちる。
　―――少し暑いが、絶好のレース日和だ。

　先頭誘導員が乗ったレーサーが発走機の横を通り過ぎると同時に号砲が鳴る。小さくカチャリと鳴った発走機から一斉に選手達がスタートした。
　ゆっくりとスピードに乗る。それでもまだまだトップスピードではない。けれどもざあっと視界は流れ、高久達は緩やかなすり鉢状の中に取り残されたように、静かに世界を作り始める。

　レース前には色々な事を考えるくせに、いざ走り始めると体が先に立つ。細胞に刻み込まれているのだ。このスピードも、位置取りも、漲る緊張感も。
　今日のラインは気心が知れた仲間達。それでも最後は己同士の戦いとなる。
　走るのだ。ただひたすらに走るのだ。前へ。
　ジャンが鳴る前に別のラインが仕掛けてきた。大丈夫、そんな事は想定内だ。ぐうっと高久が太股に力を入れる。スピードが上がるとバンクは壁のようにそそり立つ。
　ジャンが響く。その音の中を全員が駆け抜けていく。ラストの１周だ。

　トップスピードにハンドルをきつく引きつける。この流れる世界に置いて行かれないために。いや違う、俺がこのスピードを、世界を作るのだ。
　太股が悲鳴を上げるが、それを乗り越え踏みしめる。まだだ、まだ音を上げるな。ゴールの後でいくらでもイカれろ。それまでは何もかも無視だ。
　たくさんの鮮やかな勝負服の色が目の端に入る。ほんの一瞬、俺達は今虹の様なのだろうなと頭を掠めたが、すぐにその思いはスピードに振り切られた。色など見えない方がいい。俺が見るのは、誰もいないゴールライン。
　時速にすれば７０キロメートルほどなのだろうが、そんな世界なのに己が止まっているようだ。あのラインまでほんの一瞬のはずなのに。
　滾る細胞。沸騰する心。最後の一滴の汗まで使い切ってやる。―――抜け出せ、世界を。

　そして、高久のレーサーがゴールラインを走り抜けた。

　両手を離し視界を上げれば、一面のブルー。誰もいない、一面のブルー。高久の心が空に溶け、すうっと広がっていく。実力と運と―――ひたすらな努力。これが揃わないとこの景色は拝めない。
　この素晴らしい世界を自分の兄弟達にも見せたいと高久はふと思ったが、それは一瞬の事。

　こんな最高な景色、あいつらにはもったいない。見たけりゃ自分で勝ち取れ。