らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア！　～茄子編～

●死の神と少女（屋敷野梢）

「はいはーい、また呼び出されました、梢ちゃんですよー」
　空には黒雲が渦を巻き、世界に生温かい風が吹き荒れる。それは瘴気と共に天に届く渦を作り上げると霧散し、空中から一人の少女が現れた。
　細く長いお下げ髪。禍々しい漆黒の衣をふわりと纏い、光を失った印象的なクリムゾンの瞳の上には、スノードロップの冠。世界を切り裂くような鋭い翼をゆっくりと羽ばたかせ、彼女は地上に舞い降りた。
　屋敷野梢。またの名をタナトスである。

　彼女を初めて召喚した時。召喚者は彼女に呼び名を問うた。梢と呼ぶのかタナトスと呼ぶのかと。彼女は言った。
「どっちでもいいですよー。私は概念ですから」
　そう、彼女自身も解っていなかったのだ。自分とは何かという事を。
　タナトス。死を司る神。自分は冥府にいた記憶がある。光の届かない世界の底で広大な屋敷を構え、自分は次から次へと来る死者を統轄していたではないか。けれども。
　何故か少女の記憶があるのだ。オリーブ色の瞳を輝かせ、一癖ある笑顔を浮かべながら、大変な事もあるけれど、気の合う仲間達と割と好き勝手やる楽しい日々。
　海に囲まれた小さな島で。あの眩しい光。あの島で危機に陥った時出した、神の一部のような不思議な力。私は、確かに蝶になっていた。美しかった。冥府にはありえない、生命の乱舞。ろっこん、とか言った……あれは私の力だったのか。

「……梢？」
　召喚者の声に梢は俯きがちだった顔を上げた。
「何でもないですよー。さあ、敵を殲滅しましょーか」
　クリムゾンの瞳がつうっと細くなった。そこには先程微かに浮かんでいた明るい光は消えていた。そこには生き物を愛する小さな島に住む少女は消えていた。
　それは、死者を冷徹に冥府に送り続ける死の神の瞳。
　梢が細く白い腕を伸ばした。ズズズ……と地中から梢の身長ほどもある髑髏を象った大剣が、瘴気と共にゆっくりとその禍々しい姿を現した。

　それは冥府の剣。その瘴気にあてられた者は心を失い、その剣に触れた者は死の烙印が刻み込まれる。そうなったらもう逃げられない。タナトスは一瞬にしてその者を黒衣に包み込み、冥府に連れ去っていくのだ。

「いきますよー」
　梢は華奢な両腕で大剣を取った。その時、自身のお下げ髪に揺れる髪留めが目に入った。
（蝶……）
　瞬間、心が飛んだ。あの命の乱舞。空を埋める蝶の舞いは、私はどこの世界で見たのだろうか。
「……ふふっ」
　梢は口の端を上げ、目を閉じた。まるでクリムゾンの瞳に希望の光が灯るのを拒否するかのように。
　私は死の象徴。今更何を望むというのか。小さな島の少女の概念は私に取り込まれてしまった。……私はただ、ほんの一時その記憶を愛おしく思うだけだ。
　さあ行こう。召喚者が望む限り、私は戦うのだ。それが冥府の長だった概念である私の役割。

　―――混沌の世界に死という秩序を。

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