７月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

７月の☆ハッピーバースデー

●７月７日　～あおいのＢｉｒｔｈｄａｙ～

「あおい、誕生日おめでとう」
　７月７日、朝。
　桜花寮に八神修の華やかな声が響く。
　修が七夜あおいに差し出したのは、真っ赤なバラの花束。修がこの日のために選りすぐった花々だ。
「綺麗……ありがとう！」
　あおいは頬を赤く染めて、修の贈り物を受け取った。

「さて、それじゃあ行こうかな。厨房へ」
　誕生日に腕を振るい料理をご馳走できるなど、またとない機会だ。
　修は悪戯っぽく笑い、声を弾ませる。
「寮母さんの許可は取ってあるんだ。あおいも来る？」
「うん、行く」
「だと思ったよ、ありがとう。食事は二人の方が美味しいからね」
　それに、本命のプレゼントがまだだから――。
　修は謎めいた笑みを浮かべると、あおいを連れて寮の厨房へ向かった。

　―

　綺麗に磨き上げられた厨房の調理台に、修は調理道具をざっと並べた。
（ふむ。この暑さだし、さっと作れて気軽に摘まめるものが良いかな）
　手を洗い終えたあおいに、修は新品のエプロンを差し出した。
「エプロンの替え、あるといいかなって。前のがお揃いだったから俺も色違い買っちゃったけど、良いかな」
「うん、良いよ」
　そう言って身に着けたあおいのエプロン姿に、修は満足げに頷く。
「似合ってるよ。選んで良かった。さて、本日のメニューだけど……」
　そう言って修が調理台に乗せた材料は３つ。
　小麦粉、油、砂糖。これだけだ。
「……えっ？　他には？」
「ないよ、これだけさ」
　微笑む修に、あおいは怪訝そうな顔をする。
「何を作るの？」
「ふふふ。当ててごらん、あおい」
「うーん……何だろう」
　あおいは頭を悩ませた。
　家庭科が苦手科目の彼女にとってはこれ以上ない難問だ。
「クッキー？　それともビスケット？」
「いい線行ってる。でも残念、ハズレだ」
　もっと手軽に、もっと早く作れるお菓子だよ……そんな修のセリフに、あおいは両手を挙げて降参する。
「ぜんぜん分からない！　何を作るの？」
「正解は『ちんすこう』さ。沖縄のお菓子でね、手間いらずですぐ出来るよ」
　お菓子にもお茶うけにも最適で、揚げたては特に美味しい。
　話をしながら、修とあおい生地を成形し、さっそく焼き始めた。

「うわあ、いい匂い……！」
「だろう？　まあ、多少焦げてもご愛嬌さ」
　新しいエプロンを着けたあおいの隣で、焼きあがったちんすこうを皿に盛っていく修。
　その量は、二人分よりもかなり多い。
「ねえ、こんなに作るの？」
「ああ。お裾分けにね」
　修の言葉の意味を、あおいはすぐ知ることになった。
　厨房の良い匂いに誘われて、寮の人達が覗きに来るのにそう時間はかからなかったからだ。

　そして――。
　片付けの済んだ調理台の横、小さなテーブルを舞台に、ささやかなお茶会が開かれる。
『いただきます！』
　そっと指を伸ばし、湯気を立てるちんすこうを息で冷ましながら、冷たいお茶を片手に口へ放り込む。
　口当たりは軽やかで、ついつい手が止まらなくなる美味しさだ。
「美味しいや。食べすぎ注意だなあ、これ」
「ふふっ。嬉しそう」
「そりゃあおいの誕生日だからね。お茶、もう一杯どうかな？」
　こうして、少女の誕生日はゆっくりと過ぎていく。

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