のんべえエアー注意報！｜リアクション

のんべえエアー注意報！

「エプロンが欲しいんだー。あとね、キッチングッズも色々あるらしいの」
と言う七夜あおいのために、八神修は今彼女と一緒に、シーサイドアウトレットの屋外イベント『新生活応援キッチンフェアー』に来ていた。

　たくさんの品揃えに客の入りも上々だ。鳥の足の形をしたマッシャーや、ゆで卵が可愛く切れるカッター。ライオンの形をした鍋掴みを手に修が「ガオー！」とおどければ、あおいが楽しそうに笑う。
　そしてお目当てのエプロン選び。あおいは２枚のエプロンを前にうーんと腕組みした。
「この猫ちゃんの物がいいんだけど、縁取りが緑とピンク、どっちがいいかな～」
「確かにどっちも可愛いな。あおいが好きな方でいいんじゃないか？」
「う～、どうしよう！」
　あおいは修にエプロンを持って貰いしかめ面。と、その瞳がパッと輝いた。
「じゃあ、１枚は修君着ない？　色違いでお揃い！　サイズもあるから大丈夫だよ」
「え、俺？」
「これ着て今度お菓子作り教えて下さい、修先生！」
　おどけて言うあおいに思わず修は笑ってしまう。２人は結局、色違いでお揃いのエプロンを購入した。
　その後も２人は楽しくフェアーを見て回る。そして『シェイカー体験コーナー』にやってきた。

　それはジュースでシェイカー体験が出来るというコーナー。面白そうだと２人もやってみることにした。
　それぞれ好きなジュースを２種類入れ、シャカシャカシェイク。それを氷の入ったグラスに注ぎ、お好みでレモンやミントを添えればいっぱしのカクテルだ。ちょっと気取ってカチンとグラスを合わせ、２人がくいっと飲んだ瞬間―――のんべえエアーが吹き抜けた。

＊＊＊＊＊＊＊

「これ！　すっごく美味しいよ、修君！　それに何だか楽しー！！」
　頬を染めご機嫌で言うあおいに、修は笑った。
「おやおや、お客様少し飲み過ぎたようですね」
「あはは～、そうかな？　でも修君は顔赤いよ～」
「え？」
　あおいに指摘され、修は慌てて頬を押さえた。……確かに、何だか凄く顔も心もぽかぽかする。
　修は最初、シェイカーで作ったジュースを飲んだから、あおいがふざけて酔っているフリをしているかと思ったのだ。だからそれに合わせてみたのだが……これでは自分も酔ってるみたいではないか。
「のぼせたかなぁ？　でもあおいだって赤いぞ」
　あおいに突っ込み返しながらも、修の心臓はとくんとくんと大きく脈打つ。それはのんべえエアーのせいなのか……好きな人と一緒だからなのか。どちらにしてもちょっとこれはおかしい。
　しかしいつもなら冷静に状況を判断して対処するのだろうが、酔っている修にはこれが精一杯だった。
「暑いな……ベンチで休もうか」
「さんせーさんせー！」
　２人は目を合わせてクスクスと笑い合う。そしてふわふわの足取りで歩き出した。

「気持ちいーい！」
　アウトレットの敷地内にある海の見えるベンチに来ると、あおいはご機嫌で座り、ベンチをペチペチと叩いた。
「ほら、修君はここ！　早く早く！」
「あ、ああ」
　本人に隣を勧められた場合、どこまで近くに座っていいのだろうか。酔った頭で修はぼんやりと考える。そして修が座った場所は、２人の指先が触れ合うか触れ合わないかの、距離。ここならきっと、俺の胸のドキドキもあおいになんとか聞こえない。
　と、一生懸命考えたのに。
「うふふー。ごろんとさせてね、修君」
　にこにこしながらあおいは言うと、いきなり修の脚に頭を載せた。
「―――っ！」
　これは！　ドキドキが！　聞こえてしまう！
　顔を真っ赤にして修はパクパクするが、あおいはどこ吹く風だ。可愛いエプロン買えて良かったねだとか、今度何作ろうかなだとか、クスクス笑いながら喋り続ける。修も何だか夢心地。ただただ、あおいの乗った場所が熱い。

　潮風に吹かれながら、仲良く酔っ払う２人だった。

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