７月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

７月の☆ハッピーバースデー

●７月７日　～ステラのＢｉｒｔｈｄａｙ～

　大入りになった酒場の喧噪に混じって、杯を打ち鳴らす音が響く。
　星幽塔第一層にあるＢａｒ『アストラル』は、今宵も大繁盛だ。
　料理と酒を運び、店内を忙しげに行き交うスタッフ。馴染みの常連に酒を注ぐバーテンダー。そんな同僚たちと共に、アリス・ミーティアはせっせと働いていた。

（ステラ……そろそろ、来る頃かな）
　空になったグラスの瓶をきびきびと片付けながら、アリスは友人の少女に思いを巡らせた。
　寝子島の暦は７月７日、すなわちステラ・ラ・トルレの誕生日。
　アリスは今宵、とっておきのサプライズで彼女をもてなそうと待っているのだった。

　客の出入りが多い時間帯も、もうすぐ終わる。空いたテーブルを拭いて、オーダーを取り、出来上がった料理を運んで……淀みない接客を何度かこなし、戦場と化した厨房の空気が次第に収まり始めた頃だった。

「休憩入ります！　……マスター、ちょっといい？」
　アリスはそう言って、アストラルのマスターに話を切り出した。
　友達のステラをお祝いしたい。そんなアリスのお願いを、マスターは快く了承してくれた。
「ありがとう、マスター！」
　そうと決まれば善は急げだ。
　アリスは小さくガッツポーズを取り、接客へと戻っていく。
　きっと今日は素敵な夜になる、そう思えた。

　―

　しばらくして。
「いらっしゃいませー！」
　酒場のドアが開いて、ステラが店にやって来た。
　これ以上ない程の良いタイミングだ。
　アリスは店員たちに目配せし、用意していたプレゼントを用意すると、
「ステラ！」
「あっ……アリス？」
　気づいたステラを、アリスはギュッと抱きしめた。
「ステラ、誕生日おめでとう！」
「ありがとうなの～！」
　店員と一緒に拍手を送り、アリスがテーブルに恭しく並べたのは５本の小瓶。
　プレゼントの寝子島産地ビールセットだ。
「飲み比べて美味しそうなのを選んだの。あと、これも！」
　そう言って差し出したのは、虹色のリボン。髪に結んでも手首に巻いてもお洒落だよ――とは、アリスの言葉である。
「光にかざすと色んな色に見えるの。似合いそうだったから使ってね」
「うわあ……ありがとう！　すごく嬉しいの！」
　プレゼントのリボンに見入って言葉もないステラに、アリスは小さく咳払いすると、
「それでは改めて。……地ビールで乾杯いく？」
「うん！」
　ビール瓶の蓋が、景気のいい音を立てて飛ぶ。
　キンキンに冷えたジョッキに注がれる、冷えたビールの一杯。
　夏の風物詩が、ステラの誕生日を祝福する。

「それでは、誕生日おめでとう！」
「かんぱーい！」
　賑やかな酒宴が幕を開けた。
　気づけば他のお客さんも巻き込んで、歓声が、楽器の演奏が、アストラルの賑わいに花を添えていく。
「朝まで付き合うよー！　飲んで食べてイエーイ！」
「ありがとう。最高の誕生日なの～！」
「ステラ、大好き！」
　愛しさのあまりステラを抱擁するアリス。
　星幽塔の夜は、こうしてゆっくりと更けていく。

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