（くっ、キリがないっ！）
　ティクスがスライムを誘導するも、スライムたちは手を緩めない。後ろから稀跡がプール際を掃除しているが……。
「大丈夫よ。ソルさんのお陰ですごく掃除しやすいわ」
　稀跡が掃除の手を休めず礼を述べれば「少しは体を張った価値があるか」と僅かに笑うティクス。だが、次の瞬間彼が見たのは……。
「ふふっ、こちらですよ！」
　スライムの猛攻でかなり派手に衣服が説かされてながらもキラキラしている長髪の青年……スハイルと
「あぁ、もう！　神魂だか何だか知らないけど、なんでこんなわけのわからん目に遭わなきゃならないのよっ！！　でもここで逃げたら負けた気がするんだからぁっ！」
　同じようにぼろぼろになり、羞恥で顔を真っ赤にしながらもデッキブラッシで掃除を推し進める少女……水上 桜だった。
　スハイルが舞うような動きでスライムを引き付け、空いたところを桜が必死に掃除する。だが、何の因果か桜へとスライムが飛んでいく。デッキブラッシを振るえば振るうほどスライムは飛び散り、Tシャツも水着もじんわり溶かされていく。
　引き付け役のスハイルもまた、同様に衣服を溶かされてみずみずしくもしなやかな上半身をさらしている。どっちもさわやかなので見た目爽やかなスポーツ飲料水のCMっぽく見える。
「あぁ、もう！　はやく消えてよっ！」
　桜は半ば自棄になって掃除を行うが、そこへばら撒かれる洗剤。そのお陰かわしゃわしゃ泡を立ててスライムも溶けていく。どうやら洗剤が弱点のようだ。
「！　ふふっ、弱点みつけたわよ……！」
　桜の目は、どこか鋭くなっていた。
　だが、耳に飛び込んできた声で思わず我に返る。
「おいコル……少しは溶かされない努力をしろ」
「大丈夫だ、ティクス。鍛え上げた肉体に恥じるところなどない。紫苑も、月詠も、スハイルも動じてないだろう？」
「開放的で動きやすいですよ？　ほら、問題ありません♪」
　ティクスがほぼ全裸となったコルにおもいっきりつっこみを入れていた。だが、コルはどこ吹く風。すっごく堂々としている。それは紫苑もスハイルも同じなのか、清々しかったりはんなりとした笑顔を浮かべている。そして、月詠はきりっ、とした顔で一言。
「これでも避けたり隠したりする努力はしているよ。第一そちらの彼は完全にヌードというわけじゃない」
「そういう問題じゃないし、何も大丈夫じゃない。スハイル、お前もだ！」
「しかたありませんね」
　ティクスの言葉にスハイルはしぶしぶどこからか用意した布を腰に巻く。そしてコルと紫苑も布を巻く。
「……これって……」
「これだから神魂ってむかっ腹立つのよ」
　その一部始終を見ていた稀跡と桜は言葉を失う。というのも、微妙にぎりっぎり服が残った月詠とティクスの方が、微妙にエロスを感じさせる姿だったからだ。
「うん、お前たちの方がエロいな」
　コルの言葉に、ティクスは思わず苦笑し、月詠は「ふむ、私はこちら側だったか」となにか真面目に考えていた。

「ぐっ、今日は日差しがやけに強いな……」
　寝不足気味な義弘が立ち眩みを覚え、ベンチに持たれる。まぁ、その原因はスライムの所為で素っ裸になった面々の大事なところを隠す謎の光の所為もあるだろうか。
「先生はお疲れのようですし、座っていてください。掃除は滞りなく進んでいますから」
智瑜がにっこり笑って義弘を座らせる。だが、その姿はけっこうボロボロだった。武道が発案したビート板バリケードのお陰で一部はスライムの害から免れた。しかしビート板の数にも限りがあるため本当にごく一部のみとなってしまった。それがここなのである。
　おかげで『ひと』である義弘は異変に気付かなかったのだ。智瑜は意中の先生を守るべく、その周辺を掃除していた。
（けど、けっこうきわどい所が……。あぁ、それにしても……本当は先生にもお掃除を手伝ってもらいたかったのだけれども……！）
義弘は紫苑の艶姿を目撃してしまい、くらくらしてしまった。その所為で戦力にならないのだ！！
「ともかく、全部溶ける前に終わらなくちゃ！」
　智瑜が気合を入れてデッキブラッシを振るっていると……スライムがぺちょん、と胸元に飛んできた！
「……きゃああああっ？！」
　慌ててひっぺがす智瑜だったが、そこで再び惨劇が起こった。
「大丈夫か、宮祀……っ！？」
　　辛い体を引きずるように立ち上がった義弘が見たものは……、眩しい太陽の下に弾む、２つの瑞々しい豊満な果実（意味深）。
「先生？」
　きょとん、と首をかしげる智瑜。そのあどけなさの残る仕草とミスマッチのようで絶妙なナニカを感じさせる豊満な果実に……義弘は崩れ落ちた。鼻を押さえたものの、その隙間から滴り落ちる紅がすべてを語っていた。
「大丈夫ですか、先生！」
「あぁ、大丈夫だ。急に立ったのがいけなかったようだ」
　心配して駆け寄る智瑜だが、義弘は顔を真っ赤にしたままよろよろと立ち上がる。
「休んでばかりではいけないな。私も頑張ろう。だが、その状態はいけないな、この上着を着なさい」
　義弘はそういって上着を智瑜にかけるも、何かに気付いた彼女は真剣な顔で
「私、先生だったら見られても平気ですから」
　恋する乙女って、スゴイデスネー……。

　一方、美和が落とした映画のチケットを探している面々は……スライムの被害に時折遭いつつも捜索を続けていた。ベンチだけではなくフェンスやプールサイドの排水溝など、普段は目につきにくい場所も調べていく。
「こっちがわのベンチなどは一通り見たけれど……なかなか見つからないわね」
「そっちはどうだった？」
　　三宅 葉月がふぅ、とため息交じりに言う。タイラ・トラントゥールは途中で遭遇した鬼河内 萌と野菜原 ユウにも問いかける。
「こっち側も見つからない……」
「念のためトイレあたりもみたけどないね。あと探してないのってどこ？」
　萌が少しくたびれた声を出し、ユウもまた額の汗を拭ってあたりを見渡す。だが、誰も答えられず悩んでしまう。