「へぇ、やるじゃねぇか！」
「とりあえず、スライムを押し戻します」
　あられもない姿の志桜里だが、恥ずかしさを堪えてデッキブラッシを構えなおす。コルは獰猛な笑みを浮かべ、飛んできたスライムをプールへ弾き飛ばした。
「おお、絵を量産している間に……。さて、ここからは私も参戦しよう」
　休憩がてら布に絵を描いていた月詠が、それを手に現れた。彼女はいくつもの絵を置き、スライムを封印していく。
「これはこれで凄いですね……」
　秘月が感心していると、彼女へ向かいスライムが襲い掛かる。だが、それを冷静に見ていた月詠が、さりげない仕草で庇う。
「？！」
「これぐらい、平気だ」
　あっという間に衣服がぼろぼろになる月詠。だが、威風堂々と言う出で立ちである。その堂々とした姿に、コルが楽し気に笑う。
「動じる必要はない。わかってるな、お前！」
「肉体美は原初の芸術だろう？　ああ、今回は状況としてサービスだから咎めないが通常であれば流石に等価を求むからよろしく頼む」
　コルが肩を叩きながら豪快に笑い、月詠も不敵に笑う。そんな２人の様子に志桜里はなんとなくすごいな、と思うのだった。

「こっちだ！」
　コルたちが顔を上げれば、小柄な生徒がデッキブラッシ片手にスライムの攻撃を弾いて走っていた。ティクス・ソルである。彼は素早さと小柄な体を生かし、スライムたちの攻撃を巧みに避けつつ誘導していたのである。
「近辺の掃除は、任せて」
　ティクスが誘導した後、嘉渡洲 稀跡が素早く、もくもくとデッキブラッシで掃除をしていた。きれいになっていく床が、陽光に眩しい。だが、そんな彼女にもスライムは襲い掛かるが、デッキブラッシですぱーんっ！　と一閃。
「みんなの掃除の邪魔よ……。大人しくしていなさい。いいわね？」
　稀跡の眼差しが、絶対零度を放っているように見える。それに気圧されたのか、スライムたちはすごすごとプールへと戻っていく。
「いいこね」
　稀跡自身もぼろぼろになりながら掃除を続ける。その微妙にシュールな光景に一同が言葉を失ったかと思えば、一段と陽光が眩しくなった気がした。
「あらぁ、なんか半裸の方が増えましたねぇ～。暑い中の掃除ですし、致し方ないですよねぇ？」
「「……おぅ……」」
　あの後もスライムを浴びつつ掃除に専念していた巫部 紫苑は、既に生まれたままの姿だった。陽光の位置が微妙に大切な部分を隠している気がするが気にしてはいけない。まぁ、それはコルも同じなのだが。
「他人の身体美しい（エロい）よねだが清掃を優先してほしいな」
　月詠はさりげなく手が止まっている人々にそれとなく言い、うんうん、と頷く。
「さ、続けましょう？　時間がないですよ～」
「それもそうだな！　二人の言う通りだよな！」
　紫苑の言葉に、コルは大いに頷いてスライム払いに専念する。素っ裸なのに動じない彼女と、それに近い状態のコル、ボロボロ状態の月詠が堂々としている中、秘月はコルのボディにくぎ付け状態である。微妙にはぁはぁしている気がするが気にしてはいけない。
「掃除しよう」
　志桜里は、あらためて真顔でデッキブラッシを持ち直した。紫苑は「そうですよぉ」といつもの調子でほほ笑んでいた。


　――更衣室。

　男子更衣室では引き続き新井 晶がもくもくと……。
「おっ？　これは面白そうですね……」
　と、ロッカーからなんか二股に分かれた怪しい物体を取り出していた。掃除そっちのけでお宝探しに没頭しているのではないか、という疑問さえ浮かんでくる。
「……とりあえず掃除でしたね」
　ふと、真顔になった晶はある程度『持ち帰り用』と書いた紙袋を近くに置くと、もくもくと掃除を始めた。
　ちなみに後ほど武道と竜世が手伝いに来るのだが、その時既に年齢制限アイテムは消えていたことを付け加えておこう。

　さて、時同じくして女子更衣室は……、阿鼻叫喚だった。
「ティッシュに、コンタクトレンズケースに、『先生といけないレッスン』ってなんでこんなものがあるの～？！」
　白石 妙子が涙目でDVDを取り出し、コンテナに置く。かと思えば
「これ……」
「すごく透けてるわね」
　ロッカーから出て来たスケスケのショーツに困惑する青山 絢と水谷 真優理。そしてもう一人、本条 小萩はというと……？
「なんか出てきました！　黒いドレスにメイク姿の写真ですねっ！　これは同じクラスの……」
　と、例のノートから落ちた写真に首をかしげていたりする。そんな騒ぎを尻目に冷静に掃除を続ける菊地 まなだったのだが……、何か見つけた模様。
「これ、何の漫画かな？」
「待った！　それ落とし物かもしれないからこっちに！」
　中を開く前に絢が引き留め、コンテナへと入れる。とにかく次々に出てくるそういうアイテムに参ってしまう。
「……と、ともかく早く探さないと」
「元々何を探していたのかわからなくなってくるわね」
　真優理が真面目にこぶしを握り締めていうも、妙子は手にしたTバックに赤面しつつ呟いてしまう。だが、小萩はとん、と胸を叩いた。
「確かに、へんなものだらけですが！　諦めなければちゃんと落とし物は見つかるはずなのですっ！」
「せ、説得力あるかも……」
　堂々とした小萩の言葉に、絢はたじろぐ。だが、筋は通っている……様に見える。
「それにしても、一体どこに眼鏡があるのかしら……」
　真優理がため息交じりにいい、見渡した。流石に５人もいればトイレ掃除も素早くできる。故に今は探し物をしっかりしていた。それでも、見つからないのだ。
「私も眼鏡をかけているからわかるけど……ちょっとしたところに置いちゃうことが多いのよね」
　妙子の言葉に、絢が何か閃いた。彼女は一番端っこのロッカーを開け、奥の方に手を突っ込む。と……赤いフレームの眼鏡があった！
「さっき見た時はなにもなかったのに……」
「でも、みつかってよかったぁ」
　妙子が首を傾げ、まなが安堵したとたん、音もなく年齢制限にひっかっかるアイテムは消え失せてしまった。
「真面目に掃除をすれば、ゆれもおさまるのね」
　絢が真面目に頷いた時、男子更衣室から悲痛な叫びが聞こえたような気がした。
「きれいになりましたね！」
　小萩の言葉に、全員が頷く。それと同時に疲れがどっ、と出るようだった。それでも、ぴかぴかの更衣室に妙子は見渡し穏やかに言った。
「まだ時間はあるみたいだし、プール掃除の方も手伝おうかしら」
　妙子はそういうなりプールサイドへつながるドアを開き外へ……。と……、そこで視界に広がったのは……ぷるんぷりんでねばねばなスライムと、掃除に奮闘し生まれたままの姿に近い状態をさらす者達だった。そして、流れ込むスライムに妙子と彼女に続いて外に出たまなが襲われる。
「きゃあ！」　「わわっ、冷たい！」
「どうしたんです？」
　妙子とまなの声に絢が駆け寄ろうとする。だが、妙子もまなも制服がボロボロだ。まなの場合スレンダーボディが水着に包まれていたのだがこれはこれでそそる人もいるかもしれない。
「多少は濡れたりするかと思って、実はね？」
　とちょっと得意げなのがかわいい。一方の妙子は……可愛らしいブラやショーツが破れ目から見える状態だった。
「なっ、なんで？　え、この状況で掃除？　ああ、みんなあられもない姿なのはスライムの所為……？」
いやーっ！　と真っ赤になってふるふるする妙子に、改めて外を見渡し……絶句する絢と真優理。
「そっちはまだ終わっていないみたいなので、もうちょっとこっちを頑張りましょう！　完璧を目指すのです！」
　小萩はきっぱりと言い放つと、掃除道具を４人に手渡したのだった。
　ちなみにだが、妙子は『服を脱いだ状態で念ずる』ことで『体をジェル状に変化させる』ことが出来る『スライムレディ』というろっこん持ちである。……変身していたらプールのスライムに混じって大変なことになっていた……かもしれない。

　おもに月詠のろっこんで封印とか、ね！