一方、更衣室の掃除はというと……、こんな状況だった。
「いや。男子更衣室で脱衣とか空気読んで下さいよスライムさん……って、誰もいません！」
　新井 晶があたりを見渡し、愕然として叫んでいた。一緒に掃除をする男子生徒がいれば恐らく頷いていただろう内容なのだが、なぜか男子更衣室の掃除を担当したのが彼だけだったのである。
「まぁ、『晶の脱衣がサイコー！』とか女体化してないときに言われるのは正直怖かったので結果オーライ？　だからって女体化してればいいのかって訳じゃないのですが……」
　と、一人苦笑いしながら掃除をしていると……なんか、得体のしれないコケシっぽいもの（意味深）が彼の手に握られていた。
（おや？　これは良い物をゲットしました。今度女体化したら使ってみましょう）
　いったい何に使うのかは察してはいけない。
　その他、『ら倫』の壁が立ちはだかるような代物がごろごろ出てくるのだが、晶は嬉々としてそれらを回収していくのだった。
（使ったことないし、興味があるんですよね！）
　だから、何に使うのか察してはいけない。

　そんな事になっていようとは気づかない女子更衣室の掃除担当者たちは、真面目にがんばっていた。
（やったっ！　寝子島高校の制服だぁ！）
　と、内心でははしゃいでいる菊地 まな。だが、高校生なのでクールな表情と仕草を見せる。だが、伸びた手足を楽しんでいるようで、その表情はどことなく嬉しそうだ。
（プールに飛び込む夢よりは、掃除のほうが楽かしら）
　まなの傍らで内心でほっ、としながらも掃除に励むのは白石 妙子。本当は主婦なのだが、神魂の所為で女子高生の姿になっていた。我に返った時は「制服？　……こないだ見た夢の続きかしら？」と首をかしげていたが、周りで掃除をする生徒たちの姿を見、すぐに行動を開始していた。
「ここの制服も、悪くないわね♪」
　そう言ったのは、普段『ステッラ・デッラ・コリーナ』でコンシェルジュを務める水谷 真優理。こちらも最初この状況に面食らったが、傍らの従姉妹、青山 絢の姿を見かけ我に返った。そして合流し共に掃除をしている。ちなみに、絢の姿を見かけた際「あやちゃ～ん♪」と思わず抱き着こうとした所をブロックされている事を付け加えておこう。
（少しドキッとするところも絢ちゃんらしいなぁ）
　その時の事を思い出し、にこにこ顔の真優理の隣で、絢もまた楽しそうな様子で掃除をしつつ……美和の落とし物である眼鏡を探していた。
「眼鏡は外した時にうっかり置いた場所を忘れて、そのままなくしてしまうパターンが結構多いのよね。だから、美和先生が眼鏡をはずした時、どんな行動をするのか、あと性格とかをトレースしたら見つかるかもしれないわ」
「そうね。ロッカーの上とか、案外そういう場所になくしものが置いてあったりするのよね。私はちょっとロッカーの上を見てみるわ」
　絢の言葉で何か閃いたらしい。真優理は脚立を持ってくるとロッカーの上を掃除しつつ探し物を始めた。絢は引き続きロッカーの中のチェックである。
「さぁ、張り切ってお掃除しますよー！」
　気合が入った様子なのは現在の美化委員長である本条 小萩である。彼女は更衣室をてきぱきと箒で掃いていた。そんな中、妙子が「あら……？」と不思議な声を上げていた。
「どうしたの？」
「これ、忘れ物かしら？　だったら持ち主に返さないと……」
「それなら小萩が持ち主を探しますっ！」
　かな問いかけると、妙子が一冊ののノートを手に少しおろおろしていた。、そこへすかさず小萩が登場。妙子は「お願いします」とノートを渡そうとした。が、この時うっかり落としてしまう。そして開かれたページには……『禍にして刹那の記憶断片』とか、いろいろ書かれていた。例えば前世の因縁とか、秘められた能力とか、使命とか、世界の在り方とか……！
（おぉ、なんか面白いかもー）
　正体が小学一年生であるまなはちょっと興味を（内心で）示すも、小萩以外のメンバーの脳裏には１つの言葉が浮かんでいた。

　ここから導き出される答え＝厨二病。

（……見なかったことにするべきなのかしら？）
　妙子は困惑している！　うっかり目撃してしまった絢と真優理も思わず「あぁ……どうしようこれ」という複雑な表情を浮かべている！！　だが、小萩は真面目にノートを開いた。
「名前がありましたので、さっそく放送してみましょう！」
「えっ？！」「ちょっとそれは……」
　妙子と真優理が止めようとしたが、小萩はノートを手に更衣室を出る。
「すぐに戻りますので、お掃除、おねがいします！」
　小萩は一目散に放送室へ向かう。その途中廊下で滑ったりしたがそんなのは些細な問題だった。放送室にたどり着いた小萩は、マイクのスイッチを入れる！

　――漆黒なる永遠の炎獄邪天至カイさん、漆黒なる永遠の炎獄邪天至カイさん、女子更衣室に禍にして刹那の記憶断片というノートの落し物がありましたので、取りに来てください。繰り返しご連絡します……――

　念のために行っておこう。小萩は至極真面目に、持ち主にノートを返したいだけであると。

（本条さん……、親切心でやっているのは十分わかるのよ。でもこれは……）
　つっこめない絢だったが、この時、彼女はなんかゴムのような感触を掌に感じていた。そして取り出された物に面食らう。
　悲鳴を上げそうになった絢の様子に、真優理もまた首をかしげる。どうしたのだろう、と視線を別の場所に移すと……せくすぃーなランジェリーがあった。すけすけだった。そして紐だった。
「これはいったいどういう事なのかしら」
「わからない。けれども……誰かの落とし物……？　いえ、そんなはずは」
　２人そろって頭を抱えるも、その後も微妙に年齢制限に引っかかるようなシロモノばかり出てくる。
「え？　えぇ～？！　どういう事なのかしら……」
　うろたえる妙子はとりあえずプラスチックのコンテナをみつけ、その中に破廉恥な道具類を入れておこう、と提案した。
（えっ、学校の女子更衣室にどうしてこんなものがあるの？！　どうしたらいいのかしら……。先生に届ける？　ううん、できないわ。やはり、見なかったことにしたほうがいいかしら……）
　赤面になりつつ頭を抱える妙子だが、彼女もまたそのたぐいのDVDを見つけてしまった。
（きゃ～？！　だからどうしてこんなものがあるの～？！）
　顔を赤くし、涙目でコンテナに速攻で入れる妙子。
　彼女たちの様子をよそに、そういうものをまだ見つけていなかった一人冷静に掃除を続ける。
「ロッカー裏のヘアピン一本まで見逃しませんよ……ん？　これは」
「きゃーっ！？」
　まながロッカーの中から取り出した物に何かを感じ取った妙子が慌てて取り上げる。その内容が実はヌード写真集であるとは、誰が言えようか。
「……？　さっきから妙に慌てていたりするけど……何かあったのかな？」
　他の面々の様子に、まなは「なんでだろう？」と首をかしげる。だが、嫌な予感がして慌ててしまう妙子たちなのであった.ｌ



　果たして、美和先生の眼鏡は見つかるの……か？