レインボーラッシュ！｜リアクション

レインボーラッシュ！

「うわぁ、すごい綺麗……！」

　恵御納夏朝の目の前に広がるのはあまりにも幻想的な洞窟。それはまるで虹がかかっているかのようでさえあった。
　虹色洞窟と呼ばれるようになったというのも頷けるというものだ。

　ふと夏朝の視線に彼女と同じようにはしゃぐ他の人の姿が目に入る。そんな中に四十九院鸞もまたいた。まるで少女のようにはしゃいでいるところから本当に楽しんでいるというのが夏朝にも理解できた。
　その事自体は夏朝にとっても嬉しい事であった。だけど、夏朝は知ってしまったのだ。鸞がクローネであるという事を。

（……ううん。事実はどうあれ、四十九院先生は四十九院先生だ。あの烏とは心が違う、ひどい所業もしてない。普通を過ごし、煌きを楽しむ……普通の先生、だよ）

　自らの心の中に浮かぶ嫌な想いを振り払うように夏朝はそう強く思う。クローネはクローネ。鸞は鸞だと。
　知らない内に下へと降りていた夏朝の目は直ぐ近くに落ちている1つの赤い石を捉える。

（ルビー、かな？）

　キラキラと輝く宝石。まるで赤い星のようでさえあるその美しさに夏朝は思わず引き込まれる。
　すると、その宝石の中に何かが見えてくるような気さえしてくる。いや、違う。それは気のせいとかではなく、確かに何かが見えている。

「これって……寝子島高校の卒業式、かな？　ん、でも、前の3学期に見たのとは違う？」

　零れる呟き。夏朝に見えているのは確かに卒業式だが、何故か彼女の記憶にどれとも合致しない。

（あ、四十九院先生や他の先生達……。ん？　卒業生の学年カラーが、赤？　それに並んでいる顔ぶれも変だ。僕が知ってる人達ばかり？）

　現在の寝子島高における赤の学年カラーは夏朝の学年になる。つまり、彼女が赤の学年カラーの生徒の卒業を見送る事はない筈なのだ。
　それにこの光景の中で卒業証書を受け取っているのはどこかで見た事がある生徒ばかり。それはつまり――。

「あっ！」

　それは思わず上げてしまったもの。でも、それも仕方ないのかもしれない。
　何故なら、卒業生の中に夏朝自らの姿を見つけたのだから。いや、それだけならまだここまで驚かなかったかもしれない。だけど、その横に同じ学年カラーの制服に身を包んだ夏朝そっくりの女の子がいるのだ。

　猫ヘアピンと一緒に三日月のヘアピンをつけた夏朝よりもどことなく落ち着いた佇まい。それはきっと内面の現れなのだろう。
　間違いない。こうして映像を通してでも直ぐに夏朝には理解できた。彼女は、ずっと分離と共存を夢見ている、夏朝の大切な別人格だ。

（夏夜ちゃん……夏夜ちゃんも、一緒に卒業できるんだね……！）

　あぁ、そうだ。これはきっと未来の光景だ。どこにもそんな証拠などはなくても、間違いないと夏朝は思う。
　夏朝の頬を流れる涙。だけど、それは悲しみから流れるものではない。決意の涙だ。涙を拭いた夏朝の心の中に1つの光が灯される。

（この光景を忘れない。未来に同じ光景を迎えられるよう、頑張るから……！）

　それはもしかしたら険しい道のりなのかもしれない。だけど、夏朝の決意は消して潰える事はないだろう。
　例えどのような闇の中であっても、ただ1つの光を持ってきっと進み続ける。これはそんな決意の1日だ。