寝子島全島水着デー｜リアクション

寝子島全島水着デー

　三折部朝衣は、首にかかる髪を手で払い、はっと息を吐いた。
　普段は総務課勤務だが、今日は夏風邪をひいた職員の代理で、窓口に出ている。
　勤務先のお役所は、クールビズなるものを徹底し、冷房は高めの温度設定だ。
　おまけに窓口は、エントランスが開くたびに外気が入ってくるから、なかなか蒸し暑い。

　――でも。
（さすがにこれは、どうかと思うのよね）
　朝衣がたった今、話を終えた市民の方は、笑顔で悠々帰っていった。
　その背中はどーんとオープン、二の腕太腿ぷるんぷるんの、花模様の水着姿。
「今の方、90歳を超えているとは思えない、華やかな水着でしたね」
「リッカルド町長」
「あなたも素敵ですよ。日焼けした肌に、白のバンドゥビキニが良く似合う。真面目な仕事に、似合いの水着。素晴らしい」
　変な男に言われればセクハラと感じるだろうが、きらん☆と白い肌を見せて笑うリッカルドに、そんなことを言う気にはなれない。
「あ、ありがとうございます……」
　うっすら笑って返せば、リッカルドは「だから私は、あなたがふさわしいと思うんですよ」ときた。
「今から熱中症の注意喚起も含めて、広報車で島を回るんですが、一緒に来てくれませんか」

「素敵な水着姿の皆さん！　暑さを乗り切るためには、水分補給も重要です！」
　リッカルドが車に取り付けられたマイクに向かって喋る傍ら、朝衣はゆっくりアクセルを踏む。
（まさか、水着姿でこの車を運転することになるなんて……）
　エアコンでガンガンに冷やしてはいるが、なにせ日差しは窓ガラスを突き抜けてやってくる。
（それに、冷やし過ぎたら、温度差で風邪ひきそうだし）

　常温の飲み物を飲みつつ、安全運転。
　窓の向こうでは、みんなが水着。

　――と。
（あ、さっきの……！）
　相談に来ていたおばあさんが、道の隅にへたり込んでいた。

「いけない！　様子を見てきてください、朝衣君！」
「は、はい！」
　朝衣は道のわきに車を止めて、運転席のドアを開けた。そして地面に足を突こうとしたところで――。

「えっ！？」
　慌てたためか、膝ががくり。慌ててドアを掴んだお蔭で、地面に転げることはなかった。
　が、前のめりになったことで、形の良いヒップをつん！　と突きだしてしまう。

「あっ！」
　水着が隠しているところなんて、下着と同じ。
　羞恥に思わず振り返ると、町長は「HAHAHA☆」とにっこり微笑んだ。
「大丈夫、何も見てませんよ。朝衣君！」
（ぜったい見てるわよね……でも何も言えない……！）
　朝衣はぐっと唇を引き結び、身を翻して、おばあさんのもとへと向かったのだった。

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