はじめての体験｜リアクション

はじめての体験

「むむむ！　何か急に新しい事をやりたい気になってきたッス！」
　小学５年生の古尾桐子は、突如湧き上がった情熱で胸をいっぱいにしていた。
　新しいこと……でも何を？
「こういう時には前から気になってたあれ、どーがはいしんっていうやつに挑戦してみるッス！　面白いどーがを作ってカリスマ小学生ミューチューバー目指すッスよ！」
　赤いショートの髪が楽しそうに揺れた。
　動画を投稿するだけでお金が入ってくるというミューチューバーは、今や小学生にとって憧れの職業だ。
　子供だってミューチューバーになれるという。
　ポジティブでおしゃべりな桐子にはとっても向いてるんじゃないだろうか。
　めでたくやることが決まったところで、桐子の頭に？が浮かんだ。
「ところでどーがってどうやって作るんスかね？」　
　これは難問だ。
　考えたってわからないので、聞いてみることにした。
「とーちゃーん、どーがはいしんってどうやればできるッスか？」
　桐子の家族は転勤族なサラリーマンである父親だけだ。
　桐子が割とサバサバした性格で服装も動きやすい物を好むのは、男親だけで育てられた影響だろう。
　父親は少し驚いた顔をしたが、困った様子もなく説明してくれた、が。
「エンコーダー……圧縮、ファイル、ストリーミング……？　ふむふむ……ほーほー……なるほどわかんねッス！」
　神妙に聞いているかに見えた桐子にあっさりそう言われ、父親は苦笑いする。
「せんもんよーごってやつはチンプンカンプンッスからもっとわかりやすく頼むッス！」
　これでも簡単に言ったつもりなんだが、とぼやきながら父親は一生懸命噛み砕いて説明してくれた。
「とりあえずはビデオっぽいのでとるとこからッスか。うちにそんなものあったッスかね？」
　ああそれなら、と父親はごそごそと押し入れから機材を引っ張りだしてきた。
「おお、とーちゃん持ってるッスか！　でもこんなものどうして？」
　まあ昔……と父親は笑いながら言葉を濁した。
「……とーちゃんもミューチューバーデビューを目指した事があったんスか！　すげぇッス！　それで何か詳しかったんスね！」
　百万の味方を得た気分で興奮を隠せない桐子。
　瞳には父への尊敬の色があった。

「それじゃ何をとってみるッスかね。ここはカプセルギアに関するあれやこれやでやってみるッス！」
　さっそくカプセルギアを準備する桐子。
「とーちゃん、撮影の手伝い頼んだッスよ！」
　やれやれとぼやきながらも父親も楽しそうだった。
　最初は非公開にして練習するが、父親のＯＫが出れば公開もできるだろう。
「どーもこんにちはー、今日はカプセルギアの紹介をしようと思いまッス！」
　口上はすっかり一人前だ。
　果たして、桐子は人気ミューチューバーになれるだろうか？

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