水の島、寝子島｜リアクション

水の島、寝子島

「うー……しんどい」
　まだ太陽は中点にも達していないというのに、窓から差し込んでくる真夏の日差しに早くも御庭凪糸はギブアップしそうになっていた。
「おかしいなあ……きょうはまだ何にもしてないのに、なーんか体が重く感じるんだよねー」
　机にほおをくっつけてそんなことを呟いてたら、聞きつけたクラスメイトが笑って言った。
「そりゃ、毎日あれだけ飛び回ってたらバテもするさ」
「え？　オレ夏バテしてんの？」
　思いつきもしなかった、ときょとんとなる。
「そっか、これ、夏バテか」
　体が重い。だるい。食欲もいつもほどない（気がする）。夜も前みたいに眠れてないような（気がする）。
「週末どっか行って、気分転換でもしてこいよ。凪糸ならすぐ元に戻るさ！」
　凪糸の見せた反応を笑って、クラスメイトは帰宅した。

　彼の言うことももっともだ。
「こういうときこそリフレッシュってね！」
　帰宅するなりパパッと荷物をバッグに詰め込んで、その足で週末旅行に出発した。
　行き先は沢野屋。小耳にはさんだ話によると、その旅館にはどうやら座敷わらしがいるらしい。
（もし本当に座敷わらしがいるんなら、ぜひ会ってみたいんだよねー）
　そういう新しい出会いが、今までにないインスピレーションをもたらせてくれるかもしれない。
　そう考えると抑えきれないくらい、胸がわくわくした。
　だから、沢野屋に着いた早々、部屋へ案内してもらいがてら仲居に探りを入れてみた。
「そういえば、ここ……めずらしい子がいるって聞いてるんですけど？」
「まあ。そんなこと、誰がおっしゃったんですか？」
　仲居さんはほほほと笑って、それ以後も凪糸の質問をのらくらとかわして、窓から見える景色の良さや、浴場の入浴時間などを説明すると去って行った。
「うーむ、ガードが固い。
　島外だと夜中にしか出てこないとも聞いてるけど、本当のところどうなのかとか、会えそうなスポットとかあったら、教えてもらいたかったんだけどな」
　ひやかしと思われたのかもしれない。
　まあ、いきなりやって来た見知らぬ者相手に、ぺらぺら話すことでもないか。
「ん！　とりあえず、温泉入るかな！」
　必要な物だけバッグから出して、浴場へ向かった。

　あつーい湯船につかってぐーっと手足を伸ばすと、心地よいしびれがじーんときて、体がほぐれるのが気持ちいい。
　はふーっと思わず声が出る。
「んん～、やっぱり風呂っていいよね！」
　気付かないうちにこんなにもこっていたのか、肩をぐるぐる回した分だけ腕が軽くなる気がする。
　最近デザインばかりやってて、体動かしてなかったから、やっぱりなまっていただけなのかな？
「デザインに夢中になると、そればっかりになっちゃうからなあ」
　肩こりがひどくなると目や頭が痛くなる。そうなる前に、こういうとこへ来て、リラクゼーションするべきなのかもしれない。
　そんなことを思いながら、心ゆくまで温泉につかった。

「そうして体もぽかぽか、疲れも落としたら、やっぱり座敷わらしちゃんだよね！」
　準備は万端。
　女の子の好きそうな物として、シュシュを何個か持ってきた！
　かわいい物が嫌いな女の子っていないよね！
　これを渡せば、仲良くなれるかな？
　あやとりとかお手玉とかの方が好きかもしれないと、そっちも一応用意してきた。
　現代に生きるとはいえ、座敷わらしだもの。十分あり得そう。
　全部持って、いざ探索！
　と意気込んで、旅館中を探して回ったけど、やっぱりそう簡単に出てきてもらえなかった。
「そりゃそうだよなあ。やっぱ、いきなりは向こうだって身構えちゃうよな」
　じゃあこれは、お近づきのしるしに、とシュシュやお手玉をテーブルの上に残して部屋を出る。

　誰もいなくなった部屋で、お手玉に伸びる小さな手があったが、当然ながら凪糸に気づけるはずもなかった。
　ただし。後で電話で確認をしたところ、仲居さんの話では、部屋に忘れ物など見つからなかったそうだから、きっと座敷わらしに受け取ってもらえたのだろう。
　次に行ったら、今度こそ出てきてもらえるかもしれない。
　そう思い、シュシュで髪をまとめた少女の絵をさらりと描く。
　顔がにやついて止まらなかった。
　

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水の島、寝子島

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