水の島、寝子島｜リアクション

水の島、寝子島

　初瀬川理緒18歳。高校３年だけど、同時にグラビアアイドルでもある。
　高３の夏。当然グラビアなんてしてる場合じゃない。特に事務所から『偏差値30からの大学受験』なんていう裏企画まで提案されて、スタートしちゃっている今は。
　失敗したら、それまで撮ったドキュメンタリー記録は全部お蔵入り。それまでにかかった費用は事務所が背負いこむことになる。だから事務所は「失敗すると即引退」とおどしをかけてきた。
　そこになぜか予備校通いまで！
　だから少しくらい仕事を休ませてくれたっていいと思うんだけど、「普段どおりにしないと裏企画の存在がばれてしまう」……と思ったかどうかわからないけどとにかく、グラビアアイドルの仕事は減らない。
　つまり、これまでの通常業務にさらに裏企画までプラスアルファされた状態という……。
　もう毎日がハード。
　ハードったらとにかくハード！
　疲れ切ってるんだけど、もちろんそんなのカメラの前ではちらとも見せちゃいけない。……まあ、いいけど。
　覚悟もなしに、この世界に入ったわけじゃないからね。
　幸いきょうの撮影は寝子島だって聞いてるから、遠出しないですんで、楽できそうだけど。

　……と、思ったあたしがばかだった。

「理緒ちゃん、ここ（寝子島）に住んでるんだってね－」
　カメラマンの人が振り返り、気軽に言ってくる。
「はい、そうです」
　にっこり。
　また鈴島あたりで仕事かな、とばかり思っていたら、どこよここ！　無人島じゃん！　名前も知らないよ！　というか、そもそも名前あるの！？　この島！
　こんな所で仕事するの……？

　早朝から「これに乗って」と示されたのが漁船だったことから、嫌な予感はしてた。
　船便がない島＝無人島、だから。
「さすが人が来ないだけあって、砂浜も海もきれいだね。こんな場所が東京近海にあるなんて、まだまだ東京も捨てたものじゃないな」
　のんきに喜んでいるカメラマン。
　そりゃあそうかもだけど……。
　複雑な気持ちで――でも笑顔で――「そうなんですよ！　とってもすてきですよねー」とあいづちを打ちながら、組み立てられた簡易脱衣所で水着に着替えた。
　最初は白のフリルのついたビキニ。海に膝まで入って水をバシャバシャはね飛ばしてきゃあきゃあ言ったり、波打ち際に仰向けになったり、俯せになったり。用意された花を口元にあてて意味深な視線でポーズをとったりしたら、次はブルーのグラデーションの入ったタイサイドビキニに着替えて、やっぱり同じようなことをする。さらにはちょっと過激な、バブル時代を彷彿させるようなハイレグワンピースへ――懐古主義？　でリバイバル？　わかんないけど――とにかく、用意された水着へ、言われるままに次々と着替えては、カメラの向こうにいる人に向かって笑顔や、拗ねた顔など、カメラマンの要望どおりに浮かべていた。
「ねえ。これ、『週刊ヤングニャンプ』のお仕事ですよね？」
「そうよ。たしか、10月発売用の表紙か巻頭グラビアだったはず」
　着替えを手伝ってもらいながら衣装の人に訊いたら、そういう返答が返ってきた。
　10月。
　10月に水着の表紙って寒くない？
　まあ、季節感がおかしいのはいつものことなんだけど。
　とにかく丸１日かけて、それ用の写真をたくさん撮って。帰りの漁船では、もうくたくたに疲れ切って、手すりにもたれてうとうとしてた。
　ああ、きょうも仕事で休みが消えちゃったなあ、ってぼんやり考えながら。
　でも、こうして撮影のときは受験勉強しなくていいし、受験のことは忘れていられるから、いいけどね☆
　