水の島、寝子島｜リアクション

水の島、寝子島

　暑い夏の盛りだけど。小山内海にはそんなことは関係なし。
　きょうもきょうとて、スケッチできる場所を探して外を歩く。
　夏には夏にしか見られないものがある。
　壁の上で木漏れ日とそよ風にひげを揺らして眠る猫。
　路地のすきま風にくるくる回っているかき氷の吊るし看板。
　ひなたに出された金魚鉢きらきら。
　いかにも夏！　って感じでいいよね。
　そういったものを見かけるたびに、スケッチブックに描いていく。
　気に入ったものは、あとで部屋で振り返ったときに、色鉛筆で彩色してもいいかな。
　でもやっぱり、きょうも暑いね。
こうも暑いと、さすがにちょっとバテてきちゃうかも……。

　そう思って、路地の日陰で壁にもたれてスケッチブックで扇いでいると、ふと水の流れる小さな音が耳に入ってきた。
　この音。
　そういえば、このあたりって……あ、やっぱり。
　入ったのと反対側から路地を抜けて、広がる景色を見て思った。
　もう猫又川のそばまで来てたんだね。全然気付かなかった。

　夏の日差しを浴びて、きらきらきらきら白く反射している水面を、目を細めて見つめているうちに、それを写し取りたくなってたまらなくなった。
　太陽を遮ってくれそうな木陰もあるし、いいかな？
　近づいてみると、乾いて座り心地の良さそうな大きめの平らな石があった。
　うん、ここにしよう。

　川の側だとやっぱり涼しいね。
　川の流れに沿って吹く風も、ちょうどいい感じ。
　きらきらした水面を描くのはちょっと難しいけど、だからこそ、上手に描けるとうれしいし、楽しい。
　見えないけど。お魚さんも、描いてしまおう。
　きっとあの水の下では、青銀色のうろこをしたお魚さんが、気持ちよく泳いでいるに違いないから。

　…………。
　自分で描いて何だけど。お魚さん、本当に気持ちよさそう。
　……脚を入れるくらいなら、いい、か、な？
　ちょっとくらい、濡れてもいいよね？
　誰もいないし。
　一応、きょろきょろあたりを見回して、確認して。
　スケッチブックを下ろした横に、脱いだ靴と靴下を揃えて置く。
　スカートを濡らさないよう裾を少し持ち上げて。川底の石ですべったりしないように、慎重に水の中へ入っていく。
　ん。冷たくて気持ちいい～。

　両足を水につけてじっとしていると、影を求めてか、小さな魚が２匹、足元へ近づいてきた。
　恋人？　それともお友達？
　それを見て。
　あのスケッチブックのお魚さんにも、もう１匹、描いてあげようと思った。
　

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