マジカル☆アイドル☆プロジェクト！｜リアクション

マジカル☆アイドル☆プロジェクト！

　目前の光景を前に、伊藤恵美は、いかにも満足げに一つ頷いた。
「あらあら、見渡す限り全員コスプレイヤー。これこそ、私が望んでいた世界よ！」
　かくいう恵美も、現役コスプレイヤーとして、負けてはいられない！
　酒好き設定で知られる美人ボーカニャイドのコスプレは、恵美にピタリとハマっていた。
「まぁ、私はお酒は嗜む程度だけど」
　そこはそれ。ビジュアルとなりきり具合がバッチリならば問題ないはずだ、うん。
「それにしても、凄まじくも素晴らしい光景よね♪　……あ、でも、そろそろ晩御飯作らないと」
　主婦は辛いわね、と、小さく息を吐く美人ボーカニャイド。
　もう少しこのコスプレ天国を満喫していたいものだが、
「うん！　そろそろ帰らないとかな！」
　と、恵美は、パン！　と自身の両手で、両の頬を叩いた。
　気合を入れたら、いざ、モブアイドル達とのバトルフィールドへ！
「さあ、踊りまくるわよ！」
　恵美のマジカル☆アイテムは、足元を彩るシューズだ。
　シューズが、これから一暴れせんとする恵美の意思に応えるように、きらりと光る。
「日頃鍛えた華麗なダンスステップ、堪能しなさい！」
　そうはさせまいとモブアイドル達が殺到する……が、恵美のダンスは、もう、始まっている。
　ボーカニャイド（通称ボカニャ）のゲームをやり込むこと幾星霜。
　彼女達のダンスはもう、恵美の頭と身体に刻み込まれている！
（ここで……くるっとターン！）
　ピシッ！　と決めどころを押さえれば、足元のシューズが七色のスモークを生んだ。
　そして恵美が踊れば踊るほどに巻き起こる、鮮やかな突風。
　周囲のモブアイドル達が、成す術もなく薙ぎ倒されていく。
「そういえば、こういう術を使うキャラ、いたわよね」
　その姿を思い浮かべて、恵美がにっこりとする中。
　舞い上がったスモークは、薄れ行く傍から、星屑のような煌めきに変じて、辺り一面に降り注ぐ。
　そのキラキラを浴びるや否や、アイドル力を失っていくモブ達――。
「……そろそろ、マジカル☆ライブの始まりかしら？」
　指を、天高く突き上げる。
　周囲の注目が集まる中、恵美は、朗々と響く声で、威勢良く宣言した。
『ようこそ！　私のパフォーマンスの世界へ！』
　現れるのは、宇宙をバックに背負った、神秘的なステージだ。
　どこからともなく、恵美のよく知った曲のイントロが流れ始める。
　ステージにセットされたマイクを手に取って、恵美は呼吸を一つ整えた。
「――さぁ、ノリノリで行くわよ！」
　ライブ・スタート！
　重ねてになるが、ボカニャゲームをやり込みにやり込んでいる恵美である。
　歌もダンスも完璧マスター！　一切の死角なし！
（先ずは、明るいポップス調の曲！）
　元気良く、生き生きと、声を弾ませる。
　ダンスにだって抜かりはなしとくれば、観客はもう、ライブに夢中だ。
（次は、しっとりバラード！　うんうん、セットリストもバッチリね！）
　伸びやかな声、何かを訴えるように揺れる瞳、差し伸べられる手。
　観客達の間に、先ほどまでとは色の違う、静かな熱狂が満ち溢れる。
（そして……ここで、激しいロック調の曲！）
　ボカニャ曲の中でも、これはかなり著名な曲だ。
　観客――今や、完全に恵美のファンだ――も一体になって、ステージのボルテージはもう最高潮！
「今こそ、コスプレイヤー暦ウン十年のパフォーマーとしての矜持を見せる時よ！」
「……ウン十年？」
「ってそこ！　おばさんじゃないから！」
　間奏の折には、ファンとのそんなやり取りも起こったりして、ライブの盛り上がりは止むことを知らない。
　なお、元の世界に帰還した恵美が、
　――何か、全身痛いわね……うう、やっぱり年？
　なんて、少しがっくりするのは、もう少しだけあとの話だ。