マジカル☆アイドル☆プロジェクト！｜リアクション

マジカル☆アイドル☆プロジェクト！

　テオの声が青山絢の胸に運んだ『嫌な予感』は、見事に的中した。
（誰も彼もコスプレをしてアイドル……と、いうことは……）
　自分も何かしら、アイドルっぽい衣装を身に纏っているだろう、と覚悟して己の身を検める。
　視線を落として――絢はそのまま、寸の間硬直した。
「……アイドルなのに、なんでバニーなわけ……？」
　じきに零した声は、硬質な響きを帯びていた。致し方ない。
　いや、一応、この衣装だって、アイドル仕様にアレンジされてはいるのだ。
　けれど、黒のエナメルの艶やかな光沢は、少し上級者向け過ぎやしないだろうか。
　そして。
「これは……杖？」
　セクシーな黒ウサギさんは、自分の手に、煌びやかな装飾が施された杖が握られているのに気付いた。
　くるくるくるっと回してみれば、星屑がちかちかと散る。
　その煌めきが、その杖こそが絢専用のマジカル☆アイテムであることを示していた。
「おい、そこのバニーガール！」
「アイドルだな！　即刻引退して、俺達のファンになれ！」
　険呑な声に、パッと顔を上げる。
　先頭に、そこそこ整った顔立ちの男が２人。
　その後ろにも、新米アイドルと思しき絢を狙う輩が、ざわざわと殺到していた。
「……はぁ」
　絢の唇を、細く、ため息が揺らす。
　なんという厄介な事態だろう。そして、
「これだけアイドルがいるのに、バニーなんて、私くらいしかいないじゃない……！」
　ちょっぴりの八つ当たりも混ぜ込んで、杖を手に、敵陣へと切り込んでいく絢。
　怒涛の勢いで押し寄せてくるモブアイドルの皆さん方、その先頭に立つ２人の男を、
「せやっ！」
　と、鋭い杖の一撃（物理）で、絢は見事に捌いてみせた。
　アイドル力を失い、その場に崩れ落ちる男達。
「このバニー、つよ、い……」
　おい、このバニー侮れないぞ……的な顔をして自分を囲っているモブアイドル達を見渡し、
「バニーバニー言わないでほしいわ……」
　と再びのため息をついた絢は、杖を振りかざし、くるくるとバトンのように回した。
　きらきらと振る、星屑の雨。
　その眩さが、モブアイドル達の戦意や敵意を、霧消させていく――。
　モブアイドル達がアイドルとしての力を失う中、今だ！　とばかりに、絢は声を張る。

『さあ、ショーの始まりよ！』
　現れたのは、星を散りばめた美しいステージ。
　ステージの様子に、絢は、先日ブルーレイで観た、イリュージョニストのライブを思い出した。
（あれが記憶に残ってたのね。なら……私が披露するのは、歌とダンス、それにマジック？）
　その仮説を裏付けるみたいに、ステージにはマジックの道具が一式準備されている。
（何でバニースーツなのかは謎だけど……って、あ！）
　絢の脳裏に、件のライブの映像が浮かぶ。
（確か、こういう格好をした女性が助手を務めたり、パフォーマンスをしていて……）
　もしかしたらそのせいかもしれない、と、考えて、
（っ、いけない）
　と、絢はふるりと首を横に振った。
（いまはとにかく、目の前のステージを全力でやりきることに集中しないと）
　心に少しでも迷いがあれば、それは観客に見抜かれる。だから。
　――マジックも歌もダンスも、どこまでも可憐に、セクシーに。
　自分を魅せて魅せて魅せ倒すしかないと、絢は先ずは、ウサギがとび出すシルクハットを手に取った。

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