S・H・I・P・S｜リアクション

S・H・I・P・S

　思い悩んだせいかもしれない、と獅子目悠月は考える。
　せっかくの魚と肉のメイン、そしてデザート類の味については、よく覚えていない。
　従業員に送り出されエレベーターに入る。　
　シックな造りだが、考えようによってはシックな密室といえよう。他に客の姿はない。
　ロビーのボタンに触れた悠月の指に、オルカ･ヴィヴァルディの手が重なった。
「おっと……失礼」
　と言ったはいいがオルカは手を動かさなかった。
「なんの真似だ」
　やめろ、と悠月は思う。
　指先から鼓動が、伝わってしまうかもしれないから。彼の手に。
　ところがオルカは、まるでそんな言葉、聞こえていないとばかりに唇を悠月に寄せて、
「流石にホテルの部屋は用意できなかったんだけど～」
　意味深に言ったのである。
「星ヶ丘にある一軒家に部屋を用意したんだ」
「それで？」
　体のこわばりを知られたくなくて、悠月の声には苛立ちが混じっていた。
「どう？　俺とアツい夜を過ごしてみない～？」
　アツい夜、ということばに刹那、びくっと反応しかけたがすぐに、悠月はオルカの手を払いのけていた。
　ふんと鼻で笑う。
　――ふざけているだけか。
　悠月が顎をしゃくってうながすと、待ってましたとばかりにオルカは続けた。
「具体的にはステージの構成と演出について打ち合わせしようと思ってさ～。もうすぐネコフェスだしね」
　オルカはウィンクを送って悠月の返事を待つ。
　まあ、もう答えはわかってるんだけどね。悠月の性格的に――。
　案の定だった。
「その誘い乗ってやる」
　と言ったとき悠月の目には強い光が宿っていた。獲物を狙う獅子さながらの。
「そうこなくっちゃ」
　オルカは手を叩く。
「寝かせてもらえなくても文句は言うなよ」
　悠月はネクタイを締め直した。
　今はこれでいい。
　今は。
「そう言うと思って、ちゃ～んとお泊りセットを用意してあるから安心してね」
「当たり前だ」
　エレベーターはロビー階に到着した。
　扉が左右に開いた。

　――「S・H・I・P・S」　了

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　ご参加ありがとうございました
　マスターの桂木京介です。

　みなさんの「S・H・I・P・S」を楽しく描かせて頂きました。
　こうして書いてみると、私は『らっかみ！』で、キャラクター達の関係性を描くのがとても好きなのだとわかった気がしました。
　これからも色々なshipsを手がけてみたく思います。
　……もちろん、船の話もですよ。

　それではまたいずれ、どこかで。
　桂木京介でした。

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