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【期末テスト】赤点？満点？？灼熱、四日間の死線＜物語編＞
●破滅を望む少女たちの邂逅
葉利沢 倫理子のなかには、もうひとりの女がいた。
冷酷で狡猾で攻撃的な人格。名を"Malice"という。
意識という舞台の主役の座を狙うMaliceは、倫理子が電車の中で悪夢を見たのを引き金に、眠ることを恐れる弱い倫理子の人格を押しのけている時間が多くなっていた。
期末テストを受けたのもMalice。
結果は全科目満点。
「あの子、意外に頭がいいのね」
Maliceは片方の口の端を引き上げる。
周囲の羨望と妬み混じりの眼差しを楽しげに受け止めつつ教室を後にすると、下足場で、夏の浜辺で出会い別れた美女――朝鳥 さゆると再会した。
「また逢ったわね」
さゆるはゆっくりと振り返った。
大人びた容姿のさゆるは、学校の出席率は低い。例によって学校に顔を見せないにも関わらずテストだけ律義に受け、律義に高得点を取り、律義に受け取って、そのまま帰宅しようとしていた矢先だった。
「逢えて嬉しいわ。試験って最悪なんだもの。暑いし、ストレスが溜まるわ……ねえ、そう思わない？」
本来の倫理子を知っているものなら驚くような、ねっとりとした挑発的な眼差し。
さゆるの顎に指を這わせるが、さゆるはそれを無言で振り払い、ふい、と立ち去ろうとする。
そのつれなさが、Maliceの欲望に火をつけた。
「面白いじゃない」
数時間後、ふたりの姿は、寝子ヶ浜海岸にほど近いワンルームマンションにあった。
そこは、さゆるの最愛の人、片篠藍人の隠れ家であった。
さゆるはここに半年以上も住み続けている。
星ヶ丘には実家もあるがさゆるが寄りつくことはほとんどない。
あんな誰もいない空疎な豪邸に住む気になど、なりはしない。
帰るなら、このワンルームマンションの方がいい。たとえここでも一人だとしても。
ここに彼が帰ってくることがあるのか、それはさゆるにもわからなかった。
ただ、彼の残り香から離れがたくて、さゆるはこの部屋に帰り続ける。
ついて来たMaliceをどうして部屋に引き入れてしまったのかは、さゆる自身もわからなかった。
彼女の破滅的な願望が、それを選び取ったとしか言えない。
或いは何かが惹かれ合った。
彼女も自分も、破滅を望んでいる。――そんな匂いを感じ取ったのかもしれない。
ドアを閉じた途端に胸元のリボンを掴まれ、Maliceの方からさゆるの唇に吸いついてくる。
一人で過ごすはずの部屋だった。
けれど今はふたり。
吐息が熱い。
互いの制服に手を掛け、荒々しく脱がせる。
互いに一糸纏わぬ姿になったさゆるとMaliceは、流されるがままの快楽に昼も夜もなく溺れた。
◇
たぶん一日は学校を休んだ。
記憶は混濁し、時間の感覚が薄らいでいる。
泥沼の快楽から現実に意識が戻ったのは、二度目の朝。
二人分の女子用の寝子高の夏服は、脱いだ時そのままの形で散らかっている。
さゆるが半身を起こすと、シーツに包まった女が瞼を開けた。
「私のこと、覚えてる？」
「忘れたわ」
男だろうと女だろうと。
体をむさぼり合うのは愛のためなんかじゃない。
だから記憶になんか留めない。
ただ過ぎる名もなき風の如し。
Maliceはさゆるの返答にくすっと笑って枕に頬杖をつく。
「冷たいわね。私はあなたのことを覚えてるのに」
「どこで逢ったかしら？」
「あの変な箱の中よ。あの時は私じゃなくて、あの子だったけど」
私はMalice。あの子は倫理子。
Maliceにとっては自明のことであったが、さゆるに通じるわけもなく、美しい眉根が顰められる。
「なら、なおのこと分からないわ。あなたじゃない誰かと逢っていたって言われても」
「でも、私はあなたとこうして逢っている。それが事実よ」
「そういうことにしておくわ」
正直、どうでもいいし。
さゆるは前髪をかき上げる。
Maliceはちらりと時計を見遣った。
健全な高校生なら、鞄片手に学校へ行こうと電車に揺られている時間だった。
「今なら学校に間に合うわよ」
さゆるは無言でベッドを下り、裸足のままシャワールームへと向かった。
もう何もすることがない。
倫理子はさゆるを追うようにベッドを下りると、シャワールームに滑り込んだ。
二人でシャワーを浴び汗と唾液を洗い流すと、脱ぎ散らかしてあった制服を元のように身体に纏って、これ以上言葉を交わすことなくワンルームマンションを後にする。
夏の太陽がアスファルトを照らしている。
夜の世界の住人達は、何食わぬ顔で学生の流れに紛れる。
蜃気楼が白く世界を揺らしている。
今日も暑くなりそうだ。
葉利沢 倫理子のなかには、もうひとりの女がいた。
冷酷で狡猾で攻撃的な人格。名を"Malice"という。
意識という舞台の主役の座を狙うMaliceは、倫理子が電車の中で悪夢を見たのを引き金に、眠ることを恐れる弱い倫理子の人格を押しのけている時間が多くなっていた。
期末テストを受けたのもMalice。
結果は全科目満点。
「あの子、意外に頭がいいのね」
Maliceは片方の口の端を引き上げる。
周囲の羨望と妬み混じりの眼差しを楽しげに受け止めつつ教室を後にすると、下足場で、夏の浜辺で出会い別れた美女――朝鳥 さゆると再会した。
「また逢ったわね」
さゆるはゆっくりと振り返った。
大人びた容姿のさゆるは、学校の出席率は低い。例によって学校に顔を見せないにも関わらずテストだけ律義に受け、律義に高得点を取り、律義に受け取って、そのまま帰宅しようとしていた矢先だった。
「逢えて嬉しいわ。試験って最悪なんだもの。暑いし、ストレスが溜まるわ……ねえ、そう思わない？」
本来の倫理子を知っているものなら驚くような、ねっとりとした挑発的な眼差し。
さゆるの顎に指を這わせるが、さゆるはそれを無言で振り払い、ふい、と立ち去ろうとする。
そのつれなさが、Maliceの欲望に火をつけた。
「面白いじゃない」
数時間後、ふたりの姿は、寝子ヶ浜海岸にほど近いワンルームマンションにあった。
そこは、さゆるの最愛の人、片篠藍人の隠れ家であった。
さゆるはここに半年以上も住み続けている。
星ヶ丘には実家もあるがさゆるが寄りつくことはほとんどない。
あんな誰もいない空疎な豪邸に住む気になど、なりはしない。
帰るなら、このワンルームマンションの方がいい。たとえここでも一人だとしても。
ここに彼が帰ってくることがあるのか、それはさゆるにもわからなかった。
ただ、彼の残り香から離れがたくて、さゆるはこの部屋に帰り続ける。
ついて来たMaliceをどうして部屋に引き入れてしまったのかは、さゆる自身もわからなかった。
彼女の破滅的な願望が、それを選び取ったとしか言えない。
或いは何かが惹かれ合った。
彼女も自分も、破滅を望んでいる。――そんな匂いを感じ取ったのかもしれない。
ドアを閉じた途端に胸元のリボンを掴まれ、Maliceの方からさゆるの唇に吸いついてくる。
一人で過ごすはずの部屋だった。
けれど今はふたり。
吐息が熱い。
互いの制服に手を掛け、荒々しく脱がせる。
互いに一糸纏わぬ姿になったさゆるとMaliceは、流されるがままの快楽に昼も夜もなく溺れた。
◇
たぶん一日は学校を休んだ。
記憶は混濁し、時間の感覚が薄らいでいる。
泥沼の快楽から現実に意識が戻ったのは、二度目の朝。
二人分の女子用の寝子高の夏服は、脱いだ時そのままの形で散らかっている。
さゆるが半身を起こすと、シーツに包まった女が瞼を開けた。
「私のこと、覚えてる？」
「忘れたわ」
男だろうと女だろうと。
体をむさぼり合うのは愛のためなんかじゃない。
だから記憶になんか留めない。
ただ過ぎる名もなき風の如し。
Maliceはさゆるの返答にくすっと笑って枕に頬杖をつく。
「冷たいわね。私はあなたのことを覚えてるのに」
「どこで逢ったかしら？」
「あの変な箱の中よ。あの時は私じゃなくて、あの子だったけど」
私はMalice。あの子は倫理子。
Maliceにとっては自明のことであったが、さゆるに通じるわけもなく、美しい眉根が顰められる。
「なら、なおのこと分からないわ。あなたじゃない誰かと逢っていたって言われても」
「でも、私はあなたとこうして逢っている。それが事実よ」
「そういうことにしておくわ」
正直、どうでもいいし。
さゆるは前髪をかき上げる。
Maliceはちらりと時計を見遣った。
健全な高校生なら、鞄片手に学校へ行こうと電車に揺られている時間だった。
「今なら学校に間に合うわよ」
さゆるは無言でベッドを下り、裸足のままシャワールームへと向かった。
もう何もすることがない。
倫理子はさゆるを追うようにベッドを下りると、シャワールームに滑り込んだ。
二人でシャワーを浴び汗と唾液を洗い流すと、脱ぎ散らかしてあった制服を元のように身体に纏って、これ以上言葉を交わすことなくワンルームマンションを後にする。
夏の太陽がアスファルトを照らしている。
夜の世界の住人達は、何食わぬ顔で学生の流れに紛れる。
蜃気楼が白く世界を揺らしている。
今日も暑くなりそうだ。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2018年12月09日
- 参加申し込みの期限
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- 2018年12月16日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2018年12月16日 11時00分
