【期末テスト】赤点？満点？？灼熱、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？灼熱、四日間の死線＜物語編＞

●プロローグ～前日。桜花寮にて

　学生が詰め込まれた寮の試験前というのは、どこか祭の前のような緊張感が漂っている。
　明日から始まる１学期末の期末テストを前に、単語帳を捲ったり、数学の公式を暗唱したり、すっかり諦めたということを公言してみたり。
　ここは桜花寮。三つある学生寮（猫鳴館は正確には公式寮じゃないけれど）のうちの一つで、野々ののこや七夜あおいも暮らす、もっともフツウっぽい雰囲気のある寮だ。
　寮母のトシ子さんも気を利かせてか、夕食のメニューはカツカレー。
「縁起かつぎ？」
　高１の水上桜は、スプーン片手に首を傾げた。
　カツカレーはとても美味しく、ぺろり平らげる。
　……まさかこの時は、翌日以降カレー地獄になろうとは思いもよらなかった。

◇

　夕食後、風呂に入り気分もさっぱりした桜は、自室に戻ると机に教科書とノートを広げ深呼吸。
　翌日のテストに向けてラストスパートだ。
「高校生になって初めての期末テストか。どんな問題が出るんだろ。緊張するなあ」
　初日は国語、美術、社会の三科目なので、その中でも苦手な社会の教科書を捲る。
　試験に出そうな単語を拾い上げ、ノートに写す。が。
「うーん」
　どうも集中できない。参考書を手に取ってみるが、字面を見ただけでうんざりして、２秒で閉じる。
「あー、もうダメだあ。ぜんぜん頭に入ってこない」
　盛大にため息をついてのけぞり、反動で姿勢を戻すと、机の引き出しを見た。
　そこは、桜の大切な宝箱。色とりどりのビーズ、星や花や王冠のパーツ、天然石、ペンチやピンセットやテグスなど、趣味のアクセサリー作りの材料や道具が整然と仕舞われ、桜の手によって形になるのを待っているはずだ。
　桜の手は無意識のうちに引き出しに伸ばされていた。
「はっ。ダメダメ！　アクセ作りはテスト終了までおあずけじゃないの！」
　後ろ髪引かれる思いで、手をひっこめる。
　自分でもわかっているのだ。
　アクセ作りだったら何時間でも夢中になれる。今、手を付けてしまったら負けだ。
　しかし、テスト前というのは不思議なもので、やってはいけないと思うほど、やりたい想いが募ってくる。
　気づけばルーズリーフにブローチのモチーフの下絵を描いてしまっていたりして……
「ああっ、もう！　ちっとも捗らない！　なんでテスト前は関係ないことしたくなるんだろう？」

　それは、学生たちが嵌る罠。
　なぜテスト前にマンガを１巻から読み直してしまうのか。
　なぜテスト前に急に走りたくなるのか。
　なぜ誘惑は目の前に現れるのか？
　魔神マーラの所業か！？
　うずうず、ブッダならぬ人の身の桜には、なかなかの試練である。

「ちょっとくらい……ほんの１０分ほど、気分転換だからいいよね？」

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