５月の★ハッピーバースデー｜リアクション

５月の★ハッピーバースデー

★5月18日　薄野五月のバースデー★

　志波武道と同日、5月18日は薄野五月の誕生日でもある。

　5月の日数も残り半分を切った頃、青野海仔は23日の自身の、そして友人の五月の誕生日を思い出した。
「五月さんも確か、5月誕生日のはずだったな。まあ、名前も五月さんというくらいだしな。
　ふむ、歳を重ねるだけの通過儀礼のようなものだが。せっかくだ、何か用意するとするか」
　自分の事はそれ程気にしない彼女だが、友人となると話は別だ。
　早速、何をしたら良いか、思案する。

「ふむ、そうだな。これからの季節と、あまり遠慮されないような贈り物が良いか」
　大好きな海を見に行っていたら、同じ色になってしまったという髪を潮風に靡かせて、キャットロードを行けば、通りがかった和小物の店で、扇子を見かけた。
「扇子か……いいかもしれないな」
　こじんまりした店内に一歩踏み込めば、白檀の上品な香りが広がる。
　その店では情緒あるものから、少し華やかな扇子まで、平台や壁面を使ってディスプレイされており、色柄も豊富に取り扱われていた。
　繊細な細工に心を奪われ、しばらく時間を忘れて扇子を吟味する。

「しかし、買ったものそのままと言うものも、あまり面白くないな……」
　物づくりを得意とする芸術科の彼女らしく、海仔は何か記念になるものを拵える事にした。
　結局、彼女は無地の扇子セットをいくつか購入した。

　家に帰ったら、画材や水彩絵の具を机に並べ、準備に取り掛かる。
　扇子に貼るのは和紙。一般的な上質紙とは異なる。
　筆だから余程水分を含ませなければ、ペンのように紙が引っかかる事はないだろうが、滲む事も考えられる。
　紙の性質を感覚として、うまく生かせれば、予想以上のものが出来る可能性もあるが、海仔にとっては初の試み、気を抜くわけには行かない。
　そして扇子は、まず平面に扇面画を描いて、折りたたむのであるが、折った時の事を考えて、気持ち横に広く描かねば、見た時に違和感が出るだろう。

　なかなかに、やりがいがありそうだ。
　普段は暢気な海仔も、今ばかりは集中して、眠そうな目に気合を入れる。

　まずは頭の中で、イメージをきちんと決める。
　描きたいのは、涼しげな水槽。
　揺らめく水草の中、泳ぐ金魚。

　試行錯誤を繰り返し。
「これならどうだろうか」
　一番出来が良く、海仔自身も気に入ったものを、五月へのプレゼントに決めた。

　そして当日。

　御薗井Ｅセレッソと畑中華菜子は、五月のバースデーパーティのために、学校近くの洋菓子店のウッドデッキを貸しきりにしていた。
　カントリーを意識した、花で溢れた庭先。
　天気にも恵まれ、爽やかな風が吹き込んで気持ちいい。

「五月チャンのサプライズパーティー！　ロケーションも、素敵だワ！
　五月チャンは寝子島に来てからの、初めてのお友達……盛大にお祝いするノ！」
　赤い2本の三つ編みを、パタパタ揺らしながら駆け込んできたセレッソは、会場を見回して満足そう。
　深いグリーンのパラソルも清潔で、手入れの行き届いた庭といい、居心地が良さそうだ。
「飾りつけも、バッチリ100均で買ってきたアルよ～♪」
　チャイナ衣装の華菜子は、大きな買い物袋から、折り紙やモール、風船などを、どさどさと出して木製のテーブルの上に広げた。
　そしてテーブルの中央には、5月18日の誕生花「アヤメ」をセッティングする。
　パーティ用の三角帽子も、忘れていない。セレッソが、ハイッと手を挙げる。
「セレッソも華菜子チャンの飾り付けを、お手伝いするワ」
「うん、ありがとうアル！　五月ちゃんが座る席は、特に念入りにしようね」
「わかったノー！」
　二人で協力して、目に付くところは柵の上まで、女の子らしいセンスで、入念に装飾していく。
「風船かわいいノー、華菜子チャン、センスいいのネー！」
「えへへ。そんなにお金は掛けられなかったけど、十分にかわいいよね。手作り感もあるし」

　そんな仲良し少女達を、影から見守る者が約一名。
　どうやら楽しそうに駆け回る、セレッソにつられてやってきたらしい彼は、女性をもてなすための、マナーやテクニックを日夜学ぶ、尽くすタイプの男子の集い寝子島高校ホスト部の部長・八城昌也である。
「なるほど……今日は、五月ちゃんの誕生日だったんだね！
　こりゃホスト部部長としては、黙ってられないねぇ♪」
　ならば、自分も準備にかからねばなるまい。
　女性を喜ばせるのが、ホストの務めなのだから。
　昌也はそっと、洋菓子店を後にした。

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