【星幽塔】お買い物日和｜リアクション

【星幽塔】お買い物日和

☆魔法具屋sweep∽sleep

　第一階層城下町の路地の一角にある箒と魔法具のお店、sweep∽sleep。
　２５歳ほどに見える牛の獣人クーノ・ヤスピスは、箒や魔法具の仲介人を自認している。
　しゃべれない物たちは自分たちで売買手続きをすることができないので、それを代行しているというわけだ。
（此処には縁があるか望みを叶える物を求める人が来る。さ、次のお客はどっちかね）
　
「すっごいファンタジー！　何か良いもの買えたら良いな～」
　２０歳のエスカルゴ・臼居は、普段は人間が怖いひきこもりだ。
　しかしファンタジー感あふれる星幽塔は、ゲーム好きの彼にとって夢のような場所だった。
　喫茶迷い猫のクエストボードに目を輝かせたり、武器屋付よろず屋ねこよろずの品物を眺めたりしながら、魔法具屋の看板が気になって入ってみた。
（箒と魔法具に興味があったんだ！）
　飾ってある魔法道具とか箒をきょろきょろ眺めていると。
「いらっしゃい。何か欲しい物がある？　それとも呼ばれてきた人？」
　ケモ耳の店員さんに声をかけられた。
（呼ばれて……？）
　ちょっと首を傾げつつ、エスカルゴは答えた。
「あの、みていて箒が欲しいなぁって思って、それって僕だけじゃなくて他の人にも貸したり出来るかなぁ」
　そんなエスカルゴを観察し、伝わってくる箒の反応を感じながら、クーノは思った。
（……ん、こりゃ縁はあるけど自覚は無いか）
「貸す……珍しー質問。箒によるよ」
「僕のギルドにとっても働き者がいるから箒があると便利かなって！　そしてたまに僕に使わせて欲しい……」
「此処の箒には意思があるから」
「あ、呼ばれるって……そういうこと？　気に入られないと、だめなのかな？」
　不安げな表情になったエスカルゴに、クーノは言った。
「でも店内に出してるやつなら話は聞いてくれると思う。騎士の光があるなら乗ってみる？」
「箒を色々とみていて、こいつとこいつが気になるなぁって」
　エスカルゴの指差した箒を見て、クーノは頷いた。
「こっちの小雨と薔薇の根はちょい危なっかしいけど揺り椅子とか好きなら好きだと思う」
　エスカルゴが騎士の光を使い、乗ろうとするのに手を貸しながらクーノは説明する。
　おそるおそる箒に乗ったエスカルゴは、優しい揺れに安心した表情になった。
「あ、ハンモックみたい」
「機嫌良さそうな揺れ方だろ？」
　出された手に掴まって降りながら頷き、エスカルゴはもう一つの箒に乗った。
「こっちの長椅子は素材が椅子だけに乗り心地が良いの。乗ってると段々体温が移って馴染むやつ」
　揺れのない安定した箒に、エスカルゴは思案顔になった。
「どちらも寝心地良さそうだなぁ」
　降りたエスカルゴがうんうん悩んでいるのを、クーノは見守っていた。
　やがて表情に決意が浮かんだのを見て、促すように見る。
　エスカルゴは頷いて言った。
「小雨と薔薇の根の子な箒が欲しいなぁって。ハンモックみたくゆらゆら揺れてくれそう。お代はたりるかなぁ……？」
　クーノの告げた金額は、幸いエスカルゴにも払えるものだった。
　お代を貰って箒は包装せずにそのまま渡す。
「名前はお客さんがつけてやってね、うちのは仮だから」
「ありがとうね、他の箒達や魔法具にも素敵な出会いが来ますように」
　箒をそっと握りながら、エスカルゴは答えた。

「この辺りにクーノがいる店があるんだったか」
　通りを歩いていた、盗賊団『十二支団』の団長ティクス・ソルはあたりを見回した。
「そういや寄ったことはなかったな。前に聞いた魔法具は気になるし偶には土産を持って行ってみるか」
　見かけた露店に入り、手土産を選ぶ。
「クルミとレインボーベリー、ドラゴンキャベツでいいか……？」
　買い物を済ませクーノの店へ向かう。
　染みついた癖でほとんど音もなく扉をあけ、しれっと店内に入り込んだ。
（接客中か）
　クーノや箒を眺めながら待つことにする。　