【星幽塔】お買い物日和｜リアクション

【星幽塔】お買い物日和

☆ブラック・リキッド亭

　第一階層の空き屋通りの端近くでひっそり営業していたブラック・リキッド亭。
　元々薄い本（同人誌）と画材を売る通向けの店だが、ハンバーガーとアイスも販売している。
　店員は鎌八まもるとその相棒だが、先の戦でいろいろあって、現在この店には屈強な用心棒が１５名いた。
「いきなりひとでが増えたわけだが、ものは考えようだ」
　あいにく相棒は休みだが、ここはまもるの腕の見せ所だ。
（店は相棒と２人で切り盛りしてきたが無理はあった。相棒が原稿を描く時は店のことなど二の次だし、寝子島にオレらがいる時は店を閉めざるをえない）
「ヒヒーン！」
　裏の馬房から愛馬たちの鳴き声がした。こちらも以前よりかなり賑やかになっている。
　相棒の死霊馬に加え、先の戦で避難して来た人らの家畜を預かっているのだ。
（世話のために、オレは無理矢理時間を作り毎日顔を出していたが）
　店内を見回せば、用心棒たちが慣れない様子で掃除や品出しをこなしていた。
（彼らに店のことを教え、動物達の世話の仕方を教えよう。彼らがこの店をやめても力になるだろう）
　まもるは時計を見て、彼らに声をかけた。
「と、いうわけで諸君開店だ。教えた通りに頼むよ」

　さっそくお客さんがやってきた。
「ほら、お客さんだ。笑顔で、いらっしゃいませー」
　ぎこちないながらも笑顔を見せる用心棒たち。
　お客さんは一瞬固まったものの、気にせず薄い本へ向かってくれた。
「いいねその調子だ」
（動物班はどうかな？）
　ここにいない者たちは馬房で動物達の世話を行っている。
　まもるは馬房へ向かった。
　動物の世話の経験者を優先して配置したので、こちらも混乱なくできているようだ。
「そうそう、愛情をもってやってくれよ」
　ウィンクして店に戻ると、厨房にいる用心棒が心細そうに言った。
「はんばーがって奴はどうやって作るんですかい？」
　まもるは焼き上がっているバンズを取り出し、準備された具を挟んでみせる。
「ハンバーガーはこう作るんだ。簡単だろ？」
「なるほど、面白いですな」
「すみません、ＢＬバーガーください」
　お客さんから声がかかる。
「ほら注文だ、やってみて」
　メニューと挟む具が描かれた絵を見ながら、用心棒はハンバーガーを作る。
「よし完璧だ」

「奥さん毎度ー。ネコアイス１つだね」
　まもるはなじみの客に挨拶して、用心棒の店員たちに指示を出す。
「そういや牛乳が少なかったな。補充は下の倉庫だ、取ってきてくれ」
　サッカー部のゴールキーパーであるまもるは、全体を見ながら指示を出すことにも慣れているのだ。
　一段落ついたところで、まもるは相棒から預かったブツを思い出した。
「そうだ、相棒から君等に薄い本を読ませておけと言われている」
「薄い本？」
「まあ、店と関係ないわけじゃないし参考にしてほしい」
　首をひねりながら本を開いた男たちが、目を見開いて固まった。思わず声を上げそうになった者もいる。
「こ、これがうちの店の商品だったのか……」
「ただし深入りはしないことだ……おっと、これをオレが言ったことは内緒だぜ？」
「こんにちは～、新刊入ってますか？」
「ほら、またお客さんだ」
　戸口のほうを振り向いたまもるはお客の髪を見て、接客に向かおうとした用心棒を引き止める。
「まてまて、ポニテの客が来たらオレにまかせろ」
「へっ？」
「あ、相棒にはこれも内緒だぜ」
　とウィンクしたまもるは、いそいそとポニテのお客のほうへ向かうのだった。

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