寝子島ルネッサンス革命　ブルータス、お前もか｜リアクション

寝子島ルネッサンス革命　ブルータス、お前もか

「ええっ……それじゃ会うなり殺しちゃうことになるじゃない」
　タルトが心配そうな声を上げた。
「ナイフは持ってないよね？なら会わせても大丈夫だろう」
　月詠がしれっとブラックなことを言う。
「うーむ……確かに私は信念に基づいてカエサルを殺めた。恩人を裏切ったことにもなるが、それも覚悟の上だ」
「本当は……殺したくなかった？カエサルさんに謝りたいとか？」
　タルトはブルータスに問いかける。
「私は、なすべき仕事と個人的感情とは切り離す主義なのだ。後悔はしていない。――おそらく、待ち人はカエサルではない。カエサルの暗殺は成功し、私は目的を完遂した。殺された側が恨みを晴らしたいならわかるが、私が未練を抱く理由がない」
　一同はやむなく、本で調べたりブルータス自身から聞いたりして、彼の経歴を整理する。
　マルクス・ユニウス・ブルータス。紀元前85年生まれ。ローマの内乱に勝利したカエサルの部下だった。独裁を強めるカエサルに危機感を抱き、他の元老院議員らと共謀してカエサルを暗殺。しかし、その後継者であるアントニウスとオクタヴィアヌスに追討され、紀元前42年に自害した……
「カエサルでないなら、自身を討ったアントニウスか。ブルータスが恨むならその筋だ」
　月詠は次の候補を出した。
「アントニウス……個人的には親しかった。私の死後、遺体を手厚く葬ったそうだ。情勢のために敵対はしたが恨みはない」
「ブルータスさんは二回結婚してるんだね。奥さんかな？」
　タルトが本の中の記述を見つけて聞いた。
「二度目の妻、ポルキアは私の訃報を聞いて後を追った。可哀そうなことをした……」
　ブルータスは視線をさまよわせる。
「多分、私は待ち人に会って、何かを確認したいのだ。私の仕事や名声に関わることで……親族や友人を待っているのではないと思う」
「なら政治や軍事に関わることか……当時の状況を、もう少し深く聞かせてほしい。当時の話はちょっと興味がある。それに――ブルータスさんが待っている誰かを、必ず見つけてあげたいんだ」
　ブルータスは少し驚いたように、声の主の刀を見つめた。
「なぜ、初対面の私にそんな熱意を……？」
「う～んと……」
　刀は問いに答えるため、少し考える。
「会いたい、っていう気持ちは大切なものだと思うんだ。俺に剣術を教えてくれた祖父さんには、もう会いたくても会えない。でも、こういう話をしてると会いたい思いが湧いてくるから……できるなら会わせたいじゃん」