寝子島ルネッサンス革命　ブルータス、お前もか｜リアクション

寝子島ルネッサンス革命　ブルータス、お前もか

　ブルータスはその言葉を聞いて、感じ入ったように目頭を押さえた。
「諸君の好意に感謝する――私の見聞きしたこと、生前考えていたこと、なるべく詳細に話そう。私の生きた時代のローマは、動乱の極みにあった――」
　ローマには長い共和制の伝統があったこと。内乱が続く中、カエサルが民衆の支持を得て頭角を現したこと。そのカエサルが権力を集中し、共和派と対立したこと……
　カエサルの暗殺後、その腹心のアントニウスは民衆を味方につけ、後継者となった。そのため、ブルータスら共和派は立場を悪化させ、ローマを離れることになった。
「対立した人でなかったなら、共和派の仲間ではないの？」
　葉月が角度を変えて聞いてみたが、ブルータスは首を振った。
「私の盟友カッシウスは、私に先立って戦死した。惜しむべき軍才があった……だが、彼も違うと思う」
「共和派は『カエサル憎し』で結びついていたから、結束は脆かった。ブルータスの死後は、オクタヴィアヌスがアントニウスを敗死させ、長い内乱の勝者になる。そして、彼は自ら君主となり、共和制も崩壊する……」
　自分の持っている知識を淡々と要約する月詠。それを聞いて、ブルータスは電気に打たれたように眼を見開いた。
「そう、私が裏切り者の汚名を着てまで守ろうとした共和制の理想は、結局守られなかった……。私だけでなく、大勢の人間が命を落とした。それらはすべて無駄だったのか？――」
　ブルータスは、喫茶店の椅子からゆっくりと立ち上がった。
「私は、問いただしたいのだ。ローマの共和制にとどめを刺したあの男に。私のしたことが無意味だったのかどうかを確かめたかったのだ。私が待っていたのは――オクタヴィアヌスだ」

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