寝子島食べ尽くし紀行｜リアクション

寝子島食べ尽くし紀行

【猫鳴館住人の食欲は伊達じゃない！】

「ん？　なんだこれ」

　送り主不明の封筒を開けた北里雅樹は、手にした紙を確認しながらつぶやいた。

　それは『寝子島食べ尽くしチケット』。
　寝子島内限定で好きなものが無料でいくらでも食べられる、と表記されている券だ。

「応募した覚えなんてないけどな。第一、ホントに使えんのか？　こんな無茶苦茶なチケット」

　確かに宛先は自分だが、何かの間違いではないか？　と疑う。

「まぁ、いいか。もし間違いだったとしても送ってきたやつの責任だし」

　ちょうど飯でも食おう思っていたところ。
　ものは試しだ。使ってみるか。

　この時点では軽く考えていた雅樹だったが、後ほどこの幸運を文字通り噛みしめることになる。

「ああ、大丈夫っす。使えますよ。ご注文をどうぞ」
「……マジかよ」

　高校近くのラーメン屋にて、店員にチケットを見せた雅樹は言葉を失った。

　このチケット、どうやら本物のようだ。
　だとしたら？

　遠慮はいらないってことじゃないか！

「醤油チャーシュー、全マシで」
「へい！　醤油チャーシュー、全マシ入ります！」

　いつかは食べたいと思っていた、すべてのトッピング増量した注文をする。
　店員の小粋な返答が、ますます実感をもたらす。

　待つこと、10分。

「すげぇ」

　眼の前に鎮座したラーメンは、あふれるほどのチャーシューに転がり落ちかねない大玉の味卵。
　さらにメンマ、海苔、もやしにワカメがてんこ盛り。
　普段、自腹では拝めないその圧倒的ボリュームときたら、神々しさまで感じられた。

　しかも、ここだけではないのだ。
　『寝子島食べ尽くしチケット』は、丸一日、使いたい放題。
　高級レストランからカフェ、定食屋。さらにはスーパーの惣菜やコンビニの弁当まで、なんでもただで食い放題なのだ。

「このチケット、最強じゃねーか！」

　濃厚な鰹だしが味わい深い醤油スープを絡ませて、少し固めの麺をすする。
　極厚のチャーシューを噛み締め、とろける黄身が口内を満たす。
　歯ざわりのいいメンマやもやしが、さらに食欲を刺激する。

　高校生男子ですら食べきれるか不安になるほどの量なのに、不思議と残す気がしない。
　美味ゆえに、ますます食べたくなるくらいだ。

　雅樹は一滴残らずスープを飲み干しながら、次の店を思案する。

　次は、カレーショップか？
　それとも焼肉屋か。
　いやいや、寿司屋でもいいな。
　……普段押さえつけられた、猫鳴館住人の食欲をなめんなよ。

　神なるチケットに導かれ、食欲大魔神が動き出した。

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