【星幽塔】第九階層　海原の咖喱工房｜リアクション

【星幽塔】第九階層　海原の咖喱工房

　まもるは遅れがちになってきた１頭のカリブーに目をつけ、「スパイダースバイダー」の掛け声を上げれば彼のろっこん『クモ男』が発動。進化能力で糸を発射し、カリブーの足に纏わりつかせた。強力なクモの糸がカリブーの足に雪をまとわりつかせ、身動きを封じる。
　仕上げだとばかりに投げ縄の要領で糸を絡みつかせれば、１頭捕まえることが出来た。
「よっし！　オブシディアンもありがとうな」
　ガッツポーズを決めたまもるは、もちろん愛馬へのねぎらいも忘れない。オブシディアンから降りたまもるは、カリブーの糸を引き寄せつつも亮と修の様子も気になっていた。

　逃げたカリブーの速さに舌を巻きながら、修は追跡を続けていた。だが、徐々にイヌが疲れてきているのが分かる。
だが、修は１頭のカリブーに目をつけていた。群れからはぐれたカリブーだ。
　掛け声と共に進路を変え、その１頭に狙いを定める。その方向を変え、心臓に近い部分が向いたその刹那、修は矢を放っていた。
　学校では射撃部に身を置く修。だが、銃ではなく、静音武器である弓を選んだ。それもこれも。狩りを確実に成功させる為である。
　そして、その矢じりには赤い毒が仕込まれていた。魔星の力（さそり座）で与えられたものだ。
（本当は、群れの中にいるところで仕掛けて、突然倒れた仲間に群れが困惑したところをもう１頭仕留めるつもりだったんだがな）
　思わず苦笑する修。かれは橇からおり、イヌたちに待つように指示すると倒れたカリブーに歩み寄った。こと切れたばかりのカリブーはまだ暖かく、手袋をしても冷えた手を温めていた。
「よし」
　修は早速血抜きをはじめた。
　その頃、亮はというと……あえて落ちたくぼみの中にいた。手鏡を地上へと付きだせば、逃げたはずのカリブーの群れが戻ってきているのが見える。
（ここがちょうどいい餌場なんだろうな）
　のんびりと餌を食べ始めるカリブーたちを見て、亮はふむふむ、と観察する。それと同時に程よく育った成体のカリブーを探し……ややあって見つけた。
（いい具合に近寄ってきている）
　鏡に映ったカリブーは、もしゃもしゃと苔を食べている。亮は剛糸輪（大毒蛾の生糸を腕輪状に纏めているアイテム）から糸を伸ばすと……糸は雪上を走るようにしてカリブーを襲う！　音もなく足に巻き付く糸にカリブーが身を強張らせる。気付いた他のカリブーはその場から逃げ始める。
（仕留めるっ）
　すでに、亮の手には銃剣『大蛇』が握られている。彼は狙いを定め、カリブーを撃った。

「……銃声？」
　血抜きを終え、橇でカリブーを運んでいた修はその音の方向を探る。彼の記憶が確かならば、その方向は亮が溝に落ちたあたり。カリブーたちの餌場である。
（仕留めたか）
　修が予想した通り、亮もまたカリブーを仕留めていた。りっぱなカリブーを仕留めた亮は、額の汗をぬぐいながら血抜きをしていた。
「大きいな」
「八神のもな」
　亮はそれだけ言うと、僅かに口角を上げる。亮は血を抜き終わると修の橇に獲物を入れ、白樺の森を抜けた。
　合流したまもるも、カリブーを捕らえていた。それに修と亮は思わず笑みを浮かべる。
「そっちも上手くいったみたいだな。３頭か。これだけありゃ十分だな」
お互いお疲れさん、と笑えば３人ともはじけたような笑みになった。確かに寒くて大変だったが、今は気分爽快だ。
　３人は一度原住民の村に戻り、報告する。そして、カレーに必要な分だけの肉をもらい、後はその村の人にお礼を込めて進呈することに。
　話を聞いた村長は、彼ら３人に１つの話をする。なんでもこの辺りの若者は２０歳になると１人でカリブーを狩り、ようやく一人前として認められるらしい。故に１６歳にしてカリブーを狩ってきた彼らは、この辺りでは成人として認められるそうだ。
　成人した証である赤い組みひも飾りを与えられ、３人は少しばかり照れたのだった。