【星幽塔】第九階層　海原の咖喱工房｜リアクション

【星幽塔】第九階層　海原の咖喱工房

承：鍋は具材待っている！

　――第六階層
　　　Mission：渡り鳥を確保せよ！！

　広がる雲海の中を、悠々と飛ぶ鳥。その姿を、遠くから見る者が２人。この第六階層へ渡り鳥を捕まえに来た水上桜と恵御納夏朝の可愛らしいコンビである。
「あれ……ですか？」
「多分、そう」
　桜の問いに夏朝はこくり、と頷く。そして、彼女は用意した網を見ながらあたりを見渡した。
「今回は、これで罠を張ろうと思って用意したんだ。下や側面にも張ったらいいかなぁ？　張れそうな場所はあるし、いけると思うんだ」
「それじゃあ、その方へ追い立てますね」
　夏朝が岩石の浮くあたりを指さしながら言えば、桜は納得いったように頷く。だがその一方……脳裏に浮かんだのは己の射撃の腕である。だが、下手だとかそういう事ではない。むしろ真逆だ。
（そういえば、クロスボウを撃ったら……たいてい標的を撃ち落としてばかりだったよね、私）
　そう、この星幽塔での桜は「偏差射撃」を得意とする有能な冒険者なのである。それでも、今回の目的は狩猟。狩りで全力を出して傷つけるわけにはいかない。
（かえって当てないように撃つのが、難しいのね）
　色々と考えることはあるだが、悩んでも始まらないな、と桜はかぶりを振って網を張るのを手伝ったのだった。

　３０分ほど時間を整え、いよいよ狩りの時間となる。桜はボウガンを手に深呼吸。
（……あくまでも、今回の目的は渡り鳥を罠に追い込む事。鳥を狙撃するのはよっぽどの事がない限りしないわよ）
　少しばかり緊張するが、やるしかないのだ。夏朝はそんな彼女の背中をたたく。
「大丈夫だよ」
　夏朝の言葉に桜は僅かにはにかみながら頷く。
　彼女たちの傍らで、大きな桃色と白のぶち猫が小さく鳴く。夏朝が騎士の光で呼び出したのだ。
　夏朝はその猫にこっそりとねこシールをはる。そしてろっこん『重く軽く』を発動させて少しでも機動性をあげておくと、あたりを見渡し……口元を綻ばせる。ちょうどいい具合に鳥が来ていたのだ。
「ちょっと追い立ててくるから、後よろしくね」
「はいっ」
　ひらりと桃白猫にまたがり、空を行く夏朝。桜は彼女を見送るや否や、岩陰に隠れて彼女の様子を追う。
　渡り鳥の群れは夏朝が何をしようとしているのか比較的早く気付く。大きく旋回して振り落としにかかるも、星の力とろっこんでどうにか追い立てていく。
（美味しいカレーがかかっているんだもん。諦めないよ！）
　夏朝が見事猫を操れば、的確なタイミングで矢が飛んでくる。桜の援護射撃だ。しかし、鳥には当たらず絶妙な方向と風読みで鳥たちを罠へと誘導していく。
（今の、鳥に当たりそうだった……。危ない、危ない。本当に気をつけなくちゃ……）
　桜は桜で神経を削りつつの狩りである。少しでもずれれば鳥を打ち抜くことになるし、そうなったら美味しくないかもしれない。せっかくならば美味しいカレーが食べたい、と思う桜は、より目を凝らしてボウガンを唸らせる。
　その矢に方向を決められ、背後からは夏朝のと猫に追いかけられ、罠にかかったのは４、５羽の鳥だった。
「おお！　一度の狩りでこんなに獲れるなんて！」
　夏朝が嬉しそうに笑えば、桜は自分の仕事がこの結果を生んだんだ、と思い感無量なご様子である。
（よかった……っ！　本当に、うまくいってよかった！！）
　思わず震える体をぎゅっ、と抱きしめて喜びを噛み締めていると、夏朝が手に息を吐いてこすり合わせているのが見た。
「虚空は、そんなに冷えますか？」
「けっこう、ねぇ……。飛んでいる間は感じなかったけど、降りたら急に……」
　がたがた震える夏朝を、大きな桃白猫がくるんであっためる。夏朝が喜びに打ち震えているその様子を
（あ、ちょっと羨ましいかも……）
　と、見つめる桜であった。

　なにはともあれ、渡り鳥ゲットである。
　ちなみに羽毛などもゲットできたことを追記しておく。