ワールドツアー＜オーストラリア編＞｜リアクション

ワールドツアー＜オーストラリア編＞

☆やってきたロデオボーイ

　私の家はオーストラリアで牧場をやっているんだけど、数日前から日本人の世話もしてるの。
　突然現れた彼曰く、
「気付いたらいた。折角なので本場のロデオを見たい」
　だって。
　鎌八まもると名乗った彼の異国の話はおもしろかったわ。
　彼は馬や牛の手入れは勿論、牧場の仕事も完璧だったから両親も兄も歓迎したわ。
　正直私も彼を気にいっていた。
　私のポニーテールしか見ていないのには腹がたつけど。

　そう言って、ポニーテールの彼女は笑い、話を続けた。　

　兄は彼にロデオの基本を教えた。
　牛に乗るのには手間取っていたわ。
　のんびり草食べてるような牛じゃないのよ、本気で振り落としにくるわ。
「上半身に力を入れない。牛の動きに対して反対に力を入れないこと」
「むやみに周りを見渡すと目が回る。一点を見つめて」
　兄のアドバイスを、少しずつ彼は体に叩きこんだ。
　乗馬や投げ縄は完璧だったわ。
　兄は私とペアで出る予定の地元ロデオ大会に「彼と出ようか」とジョークまでとばした。

　ところが大会当日、兄は不注意で怪我をしてしまったの。
「まもる、お前に任せた。俺の分まで決めてこい、ビビるなよ」
　こうして大会にエントリしていた兄の競技は、彼がひきついだ。
　まず暴れ牛に乗るロデオ。
　練習以上の暴れ牛だったわ、私でも難しいくらい。
　私は入賞できたけど彼は最下位。
　まあ無理ないわよね。
　落ち込んでいるようには見えなかったけど、私は髪を1本ぬき指輪の様に巻き付けてやったわ。
　そしたら子供のように喜んだ。
　まぶしい笑顔に私の方がどきりとしたくらい。
　次は暴れ馬に乗っている時間を競うロデオ。
　これは入賞まではしなかったがいい線いってた。
　
　最後は私とペアで馬上から牛を投げ縄で捕らえる競技。
　彼は自信満々に私にウィンクして見せる。
　もう勝った気でいる彼に私は笑ったわ。
「いいわね、ここで優勝して一緒にマリーバ大会ヘ行くのよ」
　彼は、黙って頷いたわ。

　いよいよゲートが開く。
「いくよ、まもる☆」
　私の後ろから、彼は追いかけてきた。
　まずは私が牛を牽制し、動きを止めに行く。
　そこをすかさずまもるがロープで仕留める。
　兄と私なら、兄妹だから息が合ってるわ。
　でも私とまもるは、当日一度練習しただけなのよ。
　どうなったと思う？

　ビュンッ！
　彼の投げたロープは見事に牛を捕らえた。
　すごい拍手が沸き起こった。
　夢のようだったわ。
　優勝よ！

　表彰台に上がって、拍手の喝采の中メダルをもらって。
　私は思わず彼の頬にキスしようとした。
　……と思ったら。
　彼の姿は突然消えていたわ。
「ポニテキスがいいな」
　という呟きを残して。
　
　ずるいわね、私の心を奪ったまま消えるなんて。
　手紙くらいくれるかしら？　でも私、日本語は読めないのよ。

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