和菓子屋「萩屋」の夏｜リアクション

和菓子屋「萩屋」の夏

●「萩屋」で偶然、会いました

　特にやることがない倉前七瀬は、キャットロード周辺をぶらぶらしていた。
　目に留まる看板の文字を読んでは次へ行き、その場所でも文字を読んでは次へ。
　そのような行動を繰り返しているうち、とある店の前で足を止めた。
「和菓子屋「萩屋」……ふむん、和菓子ってあまり自分で買って食べる機会もないですし、せっかくやけん」
　ここで何か買って食べてみよう、と思い立ち、　意気揚々と「萩屋」の中へ。
　そこには色とりどり、選り取り見取りなお菓子がたくさん。
「おお、和菓子だけやと思っとったけど、洋菓子も置いとるんですね。何を頼もうか迷ってしまいますねぇ」
　陳列棚やショーケース内の商品メニューの文字を、じっくり、ゆっくり見ながら、どれを買おうかと迷う。

　七瀬が迷っている間、倉郷子竜が散歩の途中にフラッと「萩屋」に立ち寄る。
「ひと休憩だ、ひと休憩」
　暑い外を歩いたので、休憩を兼ねて涼みたかったので丁度いい。
　店に入るなり涼しい風が全身を包み込むように吹く。一旦立ち止まり、涼しさに身を任せる。
　落ち着いたところで、店内を歩き回り「色んな菓子があるんだな」と感心する。
　何か食べていこうと考えながらお菓子を見ていると、金髪ベリーショートの外国人が店内を歩き回り、どれにしようか悩んでいるようなので声をかけた。
「何やってんだ？」
　子竜に声をかけられた人物が担任のウォルター・Bだったので、七瀬も挨拶がてら声をかけた。
「ウォルター先生やなかと～！　なんしとーとですかぁ？」
「倉前じゃないか。君も風流な和菓子を食べに来たのかなぁ？」
　その会話を聞き、子竜は２人の関係が学校の教師と生徒だとわかった。
「僕は何を食べようか迷ったので、ひとまず、お店の商品に目を通そうと思ってそうしていたんです」
　だが、いつの間にか数多い商品の文字に夢中になってしまい、決められなくなっていた。
「迷っているようだねぇ。だったら、いろんなものを頼んでシェアして食べないかい？」
　そのほうがいろいろな和菓子が食べられるだろう？　というウォルター先生の提案に「いいですねぇ」と賛成する七瀬。
　お菓子選びの前に、喫茶スペースとお座敷、どっちで食べようか話し合うことに。
「お前さん達、仲がいいんだな」
　そう言って、子竜は店内で食べるお菓子を何にしようか決めるべく、いろいろ見始めた。

　ウォルター先生と七瀬は、喫茶スペースの席で食べることに。
「これば食べてみたいなぁ。このお菓子も美味しそう……」
　メニューをじっくり見ながら、あれもいい、これもいい、と七瀬は迷い始めた。
　仕事の合間にその様子を見た矢萩秋は、どれにしようか迷っているようだねえとクスリと笑う。
　迷っているということは「萩屋」のお菓子が、どれも美味しそうだと思われている証。
　職人が早起きし、腕によりをかけて作った和菓子や洋菓子を買ってくれる。
　喫茶スペースやお座敷で味わって食べてくれるお客様は、「萩屋」にとってありがたい存在だ。
　メニューとにらめっこしつつ、２人は何を頼もうかまだ悩んでいる。
「何にしようか迷っとるんやったら、僕の半分あげますよー。その代わり、ウォルター先生が選んだお菓子ば、わけてくれんか？」
「いいけど、君は何にするのかなぁ？」
「まだ決まってません……」
　七瀬はいろいろありすぎて迷い、ウォルター先生は風流な季節の和菓子が、どれかわからず。
　なので、注文するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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